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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)10188号 判決

主文

一  被告USIUは、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告USIUに対するその余の請求及び被告岸和田市に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告USIUとの間においては、原告に生じた費用の三分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告岸和田市との間においては、全部原告の負担とする。

理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金三一五万円及びこれに対する平成元年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が、USIU日本校の誘致は被告らの共同事業によるものであり、また、同校に関する被告USIUの表示及び説明並びに被告岸和田市の宣伝を信頼して同校に入学したところ、その実態が被告らの当初の表示及び説明等と著しく相違するものであつたばかりか、これに抗議するなどしたため、被告USIUから違法な停学処分を受けたことにより、財産的損害及び精神的損害を被つたとして、同校の共同事業者である被告らに対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償を、被告USIUに対し、入学契約の詐欺取消又は同被告との合意に基づく原告の納入した金員の返還を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  当事者等

(一) 被告USIUは、米国カリフォルニア州サンディエゴ市に本校を置き、カリフォルニア州法に基づき設立された学校法人である。

右被告は、本件以前に、東京都渋谷区代々木二丁目二三番一号において、英会話の教授及び研究等を目的とするUSIU日本校株式会社(その代表取締役は、甲斐田セツ子(以下「甲斐田」という。)である。以下「USIU東京校」という。)を設立していた。

(二) 原告は、USIU日本校を受験し、平成元年二月二七日、その入学金三〇万円、授業料七〇万円及び施設費一五万円を納入し、平成元年四月、USIU日本校に入学したものである。

2  被告USIUと被告岸和田市との誘致交渉の概括的経過

被告岸和田市は、大阪府及び社団法人大阪工業会と共に、昭和六二年ころから、同市に産・学・住一体の国際都市を建設する「コスモポリス計画」を推進しており、その一環として同市に外国大学を誘致しようとしていたものである。

被告岸和田市は、被告USIUとの間で、平成元年一月一八日には別紙「USIU大阪校設置についての基本協定」記載の基本協定を、同年五月一五日には別紙「USIU日本校設置についての基本契約」記載の基本契約をそれぞれ締結し、USIU日本校設置について合意するに至つた。

3  USIU日本校の開校

被告USIUは、平成元年四月二〇日、岸和田市野田町一丁目五番五号において、USIU日本校を開校し、翌二一日から同校の英語集中講座(以下「ESOLコース」という。)の授業を開始した。

4  被告USIUの原告に対する停学処分

ところが、原告は、平成元年九月一日、被告USIUから、「学内における本校学生にあるまじき行為(校内における威嚇行為)」があつたとして、原告を平成元年九月四日から同年一一月二四日までの間、停学処分とする旨の通知を受けた。

5  USIU日本校の閉校

被告USIUは、その本校について、平成二年一二月二〇日、米国連邦破産法第一一章(以下「チャプターイレブン」という。)の適用を申請し、同日本校についても、基本協定及び基本契約上予定していた教養学部(教養課程)、専門学部(専門課程)の設置や学校法人化も実現しないまま、平成三年六月一四日、閉校するに至つた。

二  争点

1  被告USIUの不法行為責任(停学処分については、争点3)

(原告の主張)

被告USIUは、故意又は過失により、平成元年度入学生である原告に対し、後記(一)記載のとおり、同(二)記載の実態と著しく相違する虚偽の表示及び説明を行い、原告をしてその表示及び説明どおりの教育、施設利用及び資格取得が可能であると誤信させてUSIU日本校に入学させたものであり、また、被告USIUは、財政悪化による倒産の危険があつたにもかかわらず、これを故意に隠匿して平成元年度学生募集を行い、同年四月にUSIU日本校を開校して原告を入学させた結果、原告に後記8の損害を与えたものである。

(一) 被告USIUの原告に対する虚偽の表示及び説明

原告は、USIU日本校に入学する際、その平成元年度入学案内等や入学説明会において、被告USIUから、被告USIU全般及び同日本校について次のような表示及び説明を受けた。

(1) 資格等について

被告USIUは、サンディエゴ、ロンドン、メキシコシティ、ナイロビ、ウィーン、西ドイツ(ウィスバーデン)及び日本の七か国にキャンパスを有し、学生は、右各国USIU校間を単位を失うことなく自由に編入し、右各国USIU校においても、大学・大学院基準協会認定の単位及び学位(准学士、学士、修士、博士号)を取得することができ、USIU日本校も米国大学の分校であるから、同校の学生は、海外留学をしなくとも、岸和田のキャンパスで必要単位を取得することにより、米国大学の学位(卒業資格)が授与される。

(2) 教育方法について

〈1〉 被告USIUは、「語学コンピューター・ラボプログラム」を開発しており、USIU日本校のカリキュラムは、特に日本人学生がより効果的に英語を話したり、講義を聞き取り、書く力をつけるために作られている。

〈2〉 ESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされ、一クラス当たりの学生数は一五ないし二〇名の少人数制である(募集人員一五〇名)。

(3) 教育スタッフについて

〈1〉 各国USIU校においても、教授巡回システムにより、学期ごとに本校の教授陣が巡回して教える。

〈2〉 USIU校の教授は、全て博士号又はこれに準ずる資格を有し、ESOLコースも、ESL/EFL(英語を母国語としない人に対する英語教授法)の資格を有する本校教授陣が指導に当たる。

(4) USIU日本校の今後の展開について

〈1〉 USIU日本校は、学校法人化を計画中であり、大阪府私学課と話を進めており、すぐにでも実現する。

〈2〉 USIU日本校においては、平成元年九月には教養学部(教養課程)が、平成三年九月ころまでには国際経営・経済学部及び国際関係学部がそれぞれ設置される。

〈3〉 USIU日本校においては、他のUSIU校で学ぶ一〇〇か国以上の学生が同校に編入することにより、日本人学生と海外からの学生とを半々として構成する本格的国際キャンパスとなる。

(5) 顧問について

USIU日本校は、次の著名人を顧問としている。

伊勢芳吉(元ダイハツ工業株式会社社長、大阪府技術協会理事)

千宗室(裏千家家元)

林健太郎(参議院議員、元東京大学学長)

椎貝博美(前筑波大学副学長、教授)

村上和雄(筑波大遺伝子研究所所長)

岡田実(大阪大学名誉教授、元大阪大学学長)

(二) 被告USIU及び同日本校の実態

(1) 資格等について

〈1〉 被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィスバーデン)にキャンパスを有していなかつたのであるから、右各校へ編入することはできなかつた。

〈2〉 米国においては、全米六地域にある各地域の「大学・大学院基準協会」が各大学の教育内容及び施設等が右協会の定める設置基準を満たしているかを審査し認定する制度が存し、右認定を受けていない大学は信用のある大学とは認められず、当該大学がその学生に授与した単位及び学位も他の大学には通用しないし、社会的にも評価されないため、右認定を受けることが必要とされ、また、右制度の下においては、大学の本校が右協会の認定を受けていたとしても、その分校には右認定が及ぶものではないから、当該分校についても右協会の認定を別個に受けることが必要とされている。USIU日本校が、その学生にUSIU本校と同価値の学位を授与するためには、右本校の属する、米国の「大学・大学院基準協会」の一つである「西部地区学校・大学協会」(以下「WASC」という。)から、USIU日本校が分校としての認定を受ける必要があつたにもかかわらず、これを受けないまま、USIU本校が、平成元年六月、WASCから財政問題を重点とする運営上の問題を指摘され、同校に対するWASCによる再認定の結論が平成二年一〇月まで留保されることになつたため、同日本校も、WASCからUSIU本校の分校としての認定を受けることが不可能となつた。

また、USIU日本校にはそもそも学部・学位課程が設置されなかつたのであるから、日本校のみにおいて単位を取得することも米国大学の学位(卒業資格)を取得することもできなかつた。

(2) 教育方法について

〈1〉 USIU日本校においては、「語学コンピューター・ラボプログラム」による授業は行われず、カリキュラムも、入学当初から明確に定まつていなかつた。

〈2〉 ESOLコースにおいても、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされたクラス編成が実施されることもないまま、レベルの違う学生が同じクラスで授業を受けるなどしたため、効果的な授業とはならなかつた。

また、USIU日本校は、募集人員を遥かに超える三二四名もの学生を入学させたため、一クラス当たりの学生数は二五名となつた(その結果、仮校舎の教室だけでは足りず、一つの教室を半分に分け、二クラスの授業が背中合わせで同時に行われることもあり、騒然として授業にならない有様であつた。)。

(3) 教育スタッフについて

〈1〉 USIU日本校には、本校から派遣された教授は一人もいなかつた。

〈2〉 平成元年春学期における教員のうち、博士やそれに準ずる修士の資格を有しない者(アン・アサリー、フランク・クレイポール及びディビット・モロウ)や英語教授法の資格を有しない者(アン・アサリー、ベリー・アレクサンダー及びフランシス・スベアーズ)がいたばかりか、平成元年春学期における教員は、同年九月までにその全員が退職するという有様であつた。

(4) USIU日本校の今後の展開について

〈1〉 学校法人化については、実現されることがなかつたが、そもそも被告USIUが大阪府私学課と話を進めていた事実すらなかつたものであつた(学校法人化は、USIU日本校の外国人教師に対する就労ビザ及び同校の外国人学生に対する就学ビザの各発給にとつても必要なものであつたが、右各ビザが発給されなかつたため、平成元年四月時の教員は、同校を僅か三か月ほどで退職し、外国人学生も同校に編入してくることはなかつた。)。

〈2〉 平成元年九月に設置されるはずであつた教養学部(教養課程)はもとより、平成三年九月ころまでには設置されるはずであつた国際経営・経済学部及び国際関係学部も、平成三年六月一四日のUSIU日本校の閉校に至るまで設置されることはなかつた。

〈3〉 USIU日本校の閉校により、同校における学生の半数を世界各国からの学生とする本格的国際キャンパスの建設も不可能になつた。

(5) 顧問について

前記六名の著名人は、いずれもUSIU日本校の顧問ではなかつた。

(被告USIUの主張)

(一) 資格等について

(1) キャンパスについて、被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィスバーデン)には同被告のエクステンション・コースを設置していた。

(2) 学部・学位課程の設置について、被告USIUは、日本校の学生募集時に「学部を設置の予定」などとして、同校に学部・学位課程が存在しないことを明確に表示及び説明しているのであるから、原告ら主張のように、USIU日本校においても、大学・大学院基準協会認定の単位及び学位を取得することができるかのように表示及び説明したことはない。

(二) 教育方法について

(1) USIU日本校のカリキュラムについて、開校当初に多少の混乱があつたにすぎない。

(2) クラス分けについて、被告USIUが、同日本校のESOLコースを合計一六種類にクラス分けする旨を表示及び説明したことはない。

(3) 学生数等について、被告USIUが、平成元年度募集人員として表示及び説明した人数よりも相当数多い学生の入学を認めたが、これにより教室が騒然としたというのは、せいぜい二、三日のことであり、一時的な現象であつたにすぎない。

(三) 教育スタッフについて

(1)〈1〉 教授巡回システムは、入学案内中の「学部」紹介欄にその説明があることから明らかなように、教養学部(教養課程)及び専門学部についての制度であるのに対し、ESOLコースの教育スタッフについては、入学案内中に「授業はUSIUサンディエゴ本校で資格認定を受けた経験豊富なネイティブスピーカーの講師陣によつて行われます」と記載してあるように、その旨を明確に表示及び説明している。

〈2〉 「USIU本校の教授陣」というのも、同本校が責任をもつてその資格を審査し、スタッフとするという意味であり、本校の現職教員という意味ではなく、実質的にも、USIU日本校スタッフとして新たに採用された教員か、一旦本校スタッフとして採用された教員かは形式的な違いにすぎず、本校の教員と何ら変わらない(常識的に考えても、サンディエゴに生活の本拠を有する教育スタッフの多数の者が一時期に日本校に異動することは、本校の教育活動に支障を来たすことになるのであるから、実現不可能である。)。

〈3〉 平成元年四月開校当時のUSIU日本校教育スタッフ中には、ケン・オートン校長(本校副学長)以外に本校の現職スタッフは存しなかつたが、USIU日本校の教授陣の中には、USIU本校から直接派遣された者も八、九名いたばかりか、その人数もその後増加している。

(2)〈1〉 教授の資格(学位及び英語教授法)についても、学生募集時の表示及び説明と実態との間に若干の齟齬は存したが、その程度は小さく、将来的に解消していく性質のものであり、実際の教授のレベルも高かつたことからすれば、不法行為を構成するほどのものではない(USIU日本校の中では比較的上級レベルに属する原告においても、教授のレベルに不満は持つていなかつた。)。

〈2〉 平成元年四月におけるUSIU日本校教育スタッフが、同年九月に一新されたのも、日米の学期制度の差と、被告USIUの期待する人材を集めるために、これらの者との契約を四か月契約とし、その再契約の可能性が不明確であつたためにすぎない。

(四) USIU日本校の今後の展開について

(1) 学校法人化について、被告USIUは、被告岸和田市及び大阪府との間で鋭意、協議及び調整を進めていたものであり、これを実現できないことが学生募集時には予見しえなかつた。

(2) 学部・学位課程の設置について、被告USIUは、学部の設置を明確に将来の予定として表示及び説明していたものであり、また、教養学部(教養課程)を設置することができなかつた点については、次のような事情があつた。

〈1〉 被告USIUは、本校はもとより、海外校のうちヨーロッパ、メキシコ及びナイロビ校において、共通の一貫したカリキュラムを持ち、英語を唯一の共通語として授業を行つているのに対し、同日本校の入学生の募集は、当然のことながら、日本人学生を対象とするものであり、その入学試験時には、右大学教育の授業をフォローしうるレベルの英語力を有する者が極めて少ないのが実情であつたため、USIU日本校においては、ESOLコースを設けて英語能力を養成し、ESOL一〇〇を履修、合格(その合格レベルは、TOEFL五五〇にほぼ対応する。)して初めて教養学部(教養課程)への進級を認めることにしたものであり、同校の開校時においては、次のESOLコースが開設されていた(なお、ESOLコースにおいては、読む、聞く、書くの能力が重視され、英会話能力は必ずしも必要とされていないので、英会話能力と次の各レベルは直ちに対応するものではない。)。

ESOL 九〇(初級、基礎英語からやり直すコース)

ESOL 九一(初級の上、高校英語レベルを徹底的に再履修することから始めるコース)

ESOL 九四(中級、高校卒業レベルを完全に履修した者が、より高度な英語力を身につけようとするコース)

ESOL 九七(中上級、英語検定二級から準一級の実力を有する者が勉学するコース)

ESOL一〇〇(上級、英語検定準一級から一級の実力を有する者が勉学するコース)

そして、被告USIUとしては、入学生が各ESOLコースに均等に分布し、ESOL一〇〇にも三〇名程度の該当者がいれば、一学期間の勉学により、少なくともその三分の一(一〇名)は、教養学部(教養課程)に進学しうる能力を有するに至るであろうと予想し、かつ、その人数であつても、学部コースを開設することを予定して、これを表示及び説明していたものであるが、当初の予想に反し、USIU日本校の平成元年度入学生の英語能力は、ESOL九一ないし九四が大半を占め、ESOL九七が二二名、ESOL一〇〇に達している者は皆無というものであつて、ESOL九七に在籍する学生が一学期間履修したとしても、教養学部(教養課程)へ進学しうる能力を有するとは考えられなかつたため、平成元年九月の開設予定をやむを得ず変更したものであつた(平成元年五月に締結した基本契約においても、既に学部コース開設を平成二年四月と変更している。)。

〈2〉 平成元年度学生募集時において、USIU日本校が独自にWASCの基準を満たしさえすれば、右時点でWASC認定を受けることは可能であつたのであるから、被告USIUには、WASC認定の学部開設の予定が実現しないであろうことにつき故意過失はなく(特に平成元年度においては、仮に原告の主張を前提としても、その募集時に教養学部(教養課程)の設置が当分の間実現できないことは予見しえなかつたものである。)、更に、被告USIUは、日本校学生の教養学部進学資格者が同本校で勉学することができるように代替措置を採つている。

〈3〉 専門学部の設置や海外校からの外国人学生編入についても、被告USIUは、将来の予定であることを明確に表示及び説明しており、また、前記〈2〉同様の理由により、学生募集時には、その実現できないことが予見しえなかつたものである。

(五) 顧問について

入学案内記載の著名人がUSIU日本校の顧問に就任していなかつたとしても、原告の同校入学の動機にほとんど影響を与えなかつたものであるから、この点に関する被告USIUの表示及び説明と実態との齟齬は、不法行為を構成するものではない。

2  被告USIUの債務不履行責任

(原告の主張)

原告は、USIU日本校に入学する際、被告USIUから、その教育内容や施設等について、前記1(一)記載の表示及び説明を受けたものであるから、右各表示及び説明どおりの教育実施、施設利用を目的とする教育契約を締結したものであるが、被告USIU及び同日本校の実態は、前記1(二)記載のとおりであつたのであるから、被告USIUには、その表示及び説明と相違する部分につき、債務不履行がある。

(被告USIUの主張)

前記争点1(被告USIUの主張)において、表示及び説明と実態との齟齬を否認する部分については、いずれも債務不履行はなく、右齟齬を認める部分についても、いずれも債務不履行を構成するほどのものではない。

3  被告USIUの違法な停学処分

(原告の主張)

(一) 原告は、USIU日本校で実際に設置された中では最高クラスである九七aのクラスに所属し、教養学部(教養課程)の設置に大きな期待を抱いていたこともあつて、被告USIUに対し、当初の表示及び説明とその実態との相違を追及していたものであるが、同被告から納得のいく説明が得られなかつたため、同被告に対し、USIU日本校の事務局長であつた甲斐田との直接面談と教養学部(教養課程)の設置等に関する質問に対する回答を要求していた。

(二)しかし、甲斐田は、原告との面談の際、質問に対する回答書を棒読みするにとどまり、その内容も原告の納得のいくようなものではなかつたため、原告は、これまでの被告USIU側の不誠実な対応等に立腹し、椅子を投げたものであるが、その方向は誰もいない学生ラウンジに対してであり、その態様も下手投げの要領であつて、結果的にも器物が破損したり、他人に怪我を負わせたりすることはなかつた。

(三) その後、被告USIU(山本実)は、原告に対し、謝罪文を書いてほしい、そうでなければ、停学処分になるかもしれない旨を連絡したため、原告は、不本意ながら、両親の名で、学校の方針は理解したので平成元年九月から引き続き勉強をしたい旨の文書を送付したものの、実際は被告USIUの方針に理解を示したわけではなかつた。

(四) 原告は、前記第二の一(争いのない事実等)4記載のとおり、被告USIUから停学処分を受けたが、その内容としては、平成元年中は全く授業を受けられなくなるという極めて厳しいものであつたばかりか、被告USIUは、同日本校学内にその旨を掲示して、被告USIUの責任を追及しようとする他の学生らに対する「見せしめ」としたものである。

(被告USIUの主張)

(一) 原告に対する停学処分は、次のような十分な事実上の根拠を有する。

(1) 原告は、平成元年八月一五日、被告USIUとの話し合い終了後、人のいるUSIU日本校校内学生ラウンジにおいて、腹立ち紛れに、傍らにあつた椅子を激しく投げつけたばかりか、これを制止しようとした被告USIUの職員の腕をふりほどき、睨みつけた。

(2) 被告USIUは、原告に対し、右(1)の行為についての謝罪及び反省の意を表す文書を提出すれば、処分を免れる旨を連絡したにもかかわらず、原告は、謝罪及び反省の意思の全く表れていない文書を送付してきたにとどまつた。

(二) そして、本件停学処分は、学内における暴力的行為という重大性及び原告のその後の反省のなさに照らし、その教育上、厳正な処分もやむを得ないというべきであるが、停学期間も三か月弱と短期のものであり、懲戒権者たる被告USIUの合理的裁量の範囲内といえるものであるから、違法性を有しない。

4  被告USIUの詐欺

(原告の主張)

(一) 被告USIU(山本実)は、原告に対し、サンディエゴ本校にはスペイン語の外国語講座がある、USIU日本校は平成元年九月までに法人化し、教養学部(教養課程)を設けるという虚偽の事実を真実であるかのように説明し、原告は、右説明を信じて、USIU日本校に入学することにしたものである(被告USIUの主張する原告の留学希望校は、受験説明会(受験前の受験及び入学等に関する説明会、以下、同じ。)の単なるアンケートに回答したものにすぎず、原告の真の希望を反映したものではない。)。

(二) 原告は、平成元年一一月一一日到達の書面をもつて、被告USIUに対し、詐欺を理由として同被告との教育契約を取り消す旨の意思表示をした。

(被告USIUの主張)

(三) サンディエゴ本校にスペイン語の外国語講座がないことは認めるが、被告USIU(山本実)が原告に対し右講座があるかのように説明した事実はないし、そもそも、原告はUSIUメキシコ校又はアフリカ校に留学する希望を有していたのであるから、留学する意思のないサンディエゴ本校に同講座がないことは何ら関係がない。

(四) 被告USIUが、同日本校を平成元年九月までに法人化し、教養学部(教養課程)を設けることができなかつた理由は、前記争点1(被告USIUの主張)記載のとおりであり、詐欺の事実はない。

5  被告USIUとの間における納入金返還に関する合意

(原告の主張)

(一) 原告は、平成元年五月ころ、被告USIU(甲斐田事務局長)との間で、USIU日本校に不満があつて辞める場合には、その納入金を全額返還する旨合意した。

(二) 原告は、前記争点4(原告の主張)(二)記載のとおり、USIU日本校に不満があつて同校を辞めるに至つた。

(被告USIUの主張)

被告USIU(甲斐田)は、原告主張のような意思表示をしておらず、また、原告が、そのころ、これに対する承諾の意思表示をしたわけでもない。

6  被告岸和田市の不法行為責任

(原告の主張)

USIU日本校の誘致は、被告USIUと被告岸和田市との共同事業であるから、被告岸和田市には、その共同事業者として、次のような義務があつたのに、いずれもこれを怠つた(原告の縷々主張するところは、次の六点に集約されるものと解される。)。

(一) 教育内容に関する調査義務違反

米国大学の分校誘致という教育事業を開始するに際しては、教育の質を最優先すべきであるところ、USIU日本校においては、ESOLコース開講がその学生に対する教育の開始に当たるのであるから、被告岸和田市としては、同校に入学する学生が資格を有する教授陣のもとで、質の高い授業を受講し、かつ、十分な教育設備を利用しうる状況にあるかを調査すべきであつたのに、これを怠り、共同事業の準備・調査期間を十分にとることもないまま、その開校を平成元年四月と決定し、また、USIU日本校当初の募集人員が一五〇名であつたのに、三二四名という仮校舎の規模及び教室数に照らしても余りにも過剰な数の学生の入学許可を放置した。

(二) 財政的基盤に関する調査義務違反

USIU日本校の誘致は、被告岸和田市が被告USIUに対し恒久的施設用地さえ提供すれば、それ以外の財政的負担は共同事業者である被告USIUが全て負担することを前提としていたものであり、また、USIU本校は、右誘致以前に既に経営が悪化し、資金調達能力がなく財政難の状況にあつたのであるから、被告岸和田市としては、その共同事業者である被告USIUが右財政的負担に耐えうる財政的基盤(資金調達の可能性)を有するかについて調査すべきであつたのに、これを怠り、被告USIU側の資産と負債の割合が五対一である旨の報告を漫然と信用してしまつた。

(三) 暫定校としての開校回避義務違反

USIU日本校の暫定校としての開校は、共同事業者である被告岸和田市と被告USIUとの合意により決定されたものであるが、本来、外国大学の日本校を誘致する場合、まず法人を設立し、その設立された法人が主体となつて、学生募集等の開校の準備を行わなければ、組織や体制の不十分さからその経営責任や運営責任が不明確になる等の問題が生ずるのであるから、被告岸和田市としては、暫定校としての開校をみあわせるべきであつたのに、これを怠り、被告USIUとの間で同被告が直接経営責任を負う旨の約束があつたことから、その経営には問題がなく、また、被告USIUが大阪府や大阪工業会からの紹介であつたことから、これらの支援が受けられるものと安易に考え、外国大学日本校開校のブームに便乗して暫定校としての開校を決定した。

(四) 学校法人化に関する調査協議等義務違反

被告岸和田市は、被告USIUとの基本協定及び基本契約において、USIU日本校の学校法人化を合意し、特に、基本協定においては、USIU日本校は平成元年九月までに学校教育法に基づき学校法人(その形態は、大阪府知事認可の専修学校又は各種学校である。)化されると定めていたのであるから、被告岸和田市としては、学校法人の設置認可基準等の法規を調査し、学校法人化のための助言、協議を行うべきであつたのに、これを怠り、右法規に関する知識を有しない被告USIUにこれを任せていた。

(五) 開校後の資産管理に関する指導監督義務違反

被告岸和田市は、基本契約において、USIU日本校が学校法人化されるまでの間、同契約の目的に反する運営がなされていると認められる場合は、USIU日本校に関する活動、運営状況、業務、会計の報告を求めるとともに、被告岸和田市との協議を要求し、同校に関する管理、運営について必要な変更をすべき旨を勧告することができる旨定めていたものであるが、前記(四)記載のような問題のある暫定校の開校を共同事業者として自ら決定したのであるから、同被告としては、同校が学校法人化されるまでの間の資産管理について次のような義務があつた(公の支配に属する教育事業に対する公金支出の観点からも、右同様の義務があつた。)のに、これをいずれも怠つた。

(1) USIU日本校の経理については、USIU東京校の事務局長であつた甲斐田がこれを兼任していたものであるが、同女は、USIU日本校と同東京校の経理を峻別することなく処理していたのであるから、被告岸和田市としては、USIU日本校の経理状況を調査し、その報告を受けるなどして、両校の経理を峻別してUSIU日本校の資産を管理するように、指導監督すべき義務があつたのに、これを怠つた。

(2) USIU日本校においては、入学生から集めた金員をUSIU本校へ送金していたものであるが、右金員は、将来のUSIU日本校のために活用されるべきものであるから、被告岸和田市としては、右送金の事実を知つた平成元年秋ころの時点で、これを調査し、その返還を求める等の措置をとるべきであつたのに、これを怠つた。

(六) USIU日本校の宣伝による誘致に係る事業計画実現の保証責任

被告岸和田市は、USIU日本校開校について、同被告発行の広報「きしわだ」、被告岸和田市市長の「ごあいさつ」と題する書面及びマスコミ発表により、USIU日本校が信用するに足りる立派な大学であり、被告岸和田市が積極的にその誘致を推進していく旨の宣伝を行つたものであるから、これらの宣伝を通じて、同校に入学する学生らに、共同事業者として誘致に係る事業計画の実現を約束し、保証したものである。

(被告岸和田市の主張)

誘致とは、あくまでも一方的な勧誘行為にすぎず(なお、右誘致の直接の相手方は被告USIUであつて、被告岸和田市が、誘致の直接の相手方ではない原告に対し、同日本校への入学を個別具体的に勧誘したことはない。)、共同事業とは全く異なるものであつて、被告USIUが、USIU日本校の事業主体であることは、基本協定及び基本契約に照らし、明白であるが、次のような事実に照らしても、被告岸和田市は、本件誘致に際し、十分な調査、検討を行つたものである。

(一) 全体について

(1) 昭和六〇年に大阪府を中心とする「コスモポリス計画」が持ち上がり、大阪府、大阪工業会及び南大阪経済振興懇話会も岸和田市に米国大学を誘致しようする動きがあり、大阪府職員が昭和六二年一一月にUSIU本校を視察していたことから、被告岸和田市も、本件誘致に際し、右視察時に入手された情報の提供を受け、市議会コスモポリス懇話会に大阪府大藤理事や同府商工部職員を招き、被告USIUとの交渉経過などを聴取して理解を進めた。

(2) 昭和六三年一〇月には市議会コスモポリス地域整備特別委員会が愛知県小牧市及び新潟県中条町を訪問して、同種事例を調査した。

(3) 昭和六三年一一月には、被告岸和田市は、USIU本校へ視察団を派遣した。

(二) USIU日本校の教育内容について

(1) ESOLコースの教育内容等学校運営については、あくまでも被告USIUの責任において実施されるべきものであるが、同被告は、基本協定及び基本契約上の同日本校設置の趣旨に沿つて、入学生の能力等を踏まえ、現実に則した対応をしている。

(2) 入学生の募集人員については、新設校のため、入学辞退者の予想が困難であり、結果的に募集人員を超える入学者数となつたものにすぎない。

また、その開校時期についても、USIU日本校は、学校法人化を前提とするものであるから、右法人化の際の審査によるチェックがなされる予定の下に、日本の学期制度に合致するようにしたものであり、調査検討を行わなかつたわけではない。

(三) 被告USIUの財政的基盤について

被告岸和田市は、次のような調査を行い、被告USIUがアメリカにおける一流校であり、歴史、教育内容及び経営基盤に問題がないと信頼するに至つたものであり、右以上に調査の必要性を基礎付けるような客観的事情もなかつた。

(1) 被告岸和田市は、被告USIU(ラスト学長)から、クレサップ・パジェットアンドコーマック会計事務所の資料に基づき、被告USIUの資産はその負債の五倍はある旨の説明を受けた。

(2) 被告岸和田市は、大阪府から提供を受けたバロン社ピーターソンズ社などの大学情報誌により、アメリカにおける被告USIUの位置付け及び評価等を調査検討した。

(四) 学校法人化について

USIU日本校の学校法人化は、基本協定及び基本契約上、被告USIUの責任であることは明白であるから、学校法人化の不成功又はその遅延については、被告岸和田市にその責任はない。

また、学校法人化の成否は、私学審議会を経て、最終的には府知事の決するところではあるが、被告岸和田市は、この点につき、被告USIU、大阪府商工部及び大阪府私学課と協議を重ねたり、被告USIUにできるかぎりの助言を行つている(もつとも、前記協議において、見解の相違により、学校法人化の手続に若干時間を要することがあつたが、平成二年七月二六日には、認可申請の事前協議書を大阪府私学課へ提出し、私学審議会の議を得るところまで進行していたのであるから、学校法人化については、ほぼ問題のない状況であり、平成三年二月二六日、右事前協議書の提出が撤回されたのは、専ら被告USIU側の事情によるにすぎない。)。

(五) 暫定校としての開校について

暫定校の開設は、基本協定において既に規定されていたことからも明らかなように、既定の方針であつたにすぎない。

(六) 資産管理について

USIU日本校の設置主体はUSIU本校であるから、同日本校の経営及び会計処理は、全てUSIU本校が行うべきものであつて、被告岸和田市が関与しうるものではないが(なお、将来のUSIU日本校の学校法人化の審査に当たつては、USIU本校による財政的支出のチェックがなされることは当然である。)、右の点をひとまず措くとしても、被告岸和田市は、基本契約の趣旨に則り、被告USIU側から必要な報告を受けたり、同被告に対する協議や申し入れ等を行つているし、特に、右資金を将来の日本校のために活用できるように助言していた。

また、公金支出の観点についても、判例上、「公の支配」の意義は緩やかに解されているのであるから、被告岸和田市は、これに従つて、被告USIUに対し、前記のとおり、必要な報告を同被告に対する協議や申し入れ等を行つている。

(七) USIU日本校の宣伝について

広報「きしわだ」については、被告岸和田市は、広報発行規程に基づき、市民への情報提供としてUSIU日本校誘致を広報誌に掲載したにすぎず、右発行規程の性格上、また、その記事内容自体から明らかなように、市民に対し、直接、誘致の成功を保証するものではないし、岸和田市以外に居住する学生全てが右広報誌を見ているとは限らない。

市長の「ごあいさつ」と題する書面も、被告岸和田市のUSIU誘致の儀礼的な挨拶に過ぎないのであるから、被告岸和田市がこれに基づいて個別具体的に学生を誘致したものとはいえない。

マスコミ発表については、被告岸和田市は、被告USIUとの間で締結した基本協定に基づき、右事実を発表したものにすぎず、宣伝を行つたものではない。

7  被告らの共同不法行為責任

(原告の主張)

(一) 民法七一九条一項前段

被告岸和田市は、コスモポリス計画という行政上の施策の推進の一環としてUSIU日本校の開校及び学生の募集並びにその管理運営等について積極的に関与、支援し、被告USIUも、被告岸和田市の右支援を利用し、同日本校の開校及び運営を行つてきたものであり、両被告には、密接不可分な相互利用の関係がある上、基本協定及び基本契約という主観的なつながりも存するのであるから、強い関連共同性が存する。

仮にそうでないとしても、被告岸和田市は、USIU日本校の開校及び学生の募集を積極的に支援した上、開校後も学校法人化に向けて共同作業を実施してきたものであり、両被告は、社会通念上一体として行動していたと評価しうるのであるから、両被告には共同不法行為者としての関連共同性が存する。

(二) 民法七一九条二項

仮に右一の共同不法行為が成立しないとしても、被告岸和田市は、被告USIUを積極的に誘致して開校の意思決定をさせ、また、種々の助言、助力を行つて前記争点1(原告の主張)記載の同被告の不法行為の実行を容易ならしめたものであるから、これに対する教唆及び幇助が存する。

(被告岸和田市の主張)

(一) 被告岸和田市と被告USIUとの間に相互利用の関係はなく、USIU日本校の学生の募集、学校の管理運営等は、すべて被告USIUの判断と責任において行われ、両被告の間に、資本的経済的結合関係はもとより、人的組織的結合関係も認められないのであるから、社会通念上一体を有する行為も存しない。

(二) 被告岸和田市の教唆及び幇助は存しないし、その故意過失もない。

(被告USIUの主張)

被告岸和田市と被告USIUは、誘致者・被誘致者の関係にすぎないのであるから、共同不法行為責任を認める根拠は存せず、その余については、被告岸和田市の主張を援用する。

8  損害

(原告の主張) 合計三一五万円

(一) 入学金 三〇万円

(二) 授業料 七〇万円

(三) 施設費 一五万円

(四) 慰謝料(原告は、被告らの表示及び説明どおりの教育内容を享受することができなかつたばかりか、被告USIUから違法な停学処分も受け、一年間の回り道を余儀なくされたことに対する慰藉料のほか、前記(一)ないし(三)以外のテキスト代、通学のための定期代及び下宿代等の財産的損害を含む包括慰藉料) 二〇〇万円

(被告USIUの主張)

(一) 入学金及び授業料について

(1) 入学金は、入学そのものの対価であるところ、原告は、被告USIU日本校に入学したのであるから、右入学金をその損害とすることはできない。

(2) 授業料も、原告は、その在学中に一定のレベルを保つた英語教育を受けたのであるから(仮に被告USIUに債務不履行責任及び不法行為責任があつたとしても)、右利益を享受した限度で損益相殺が行われるべきである。

(二) 慰藉料について

(1) 原告は、平成元年九月から停学処分期間にあつたものであるが、右期間中に被告USIUで勉学する意思を喪失し、同年一一月には自ら退学を選択したものであるから、一年間の回り道を余儀なくされたとはいえない。

(2) 停学処分についても、争点3(被告USIUの主張)記載のとおりであるから、原告にはこの点に関する精神的損害も存しない。

(被告岸和田市の主張)

(一) 授業料等について

被告USIUは、原告との教育契約に基づき、現実に教育の提供を行つているのであるから、原告にこの点に関する損害は存しない。

(二) 慰藉料について

テキスト代、通学のための定期代及び下宿代等の支出については、原告において既にその価値を享受しているのであるから、そもそも財産的損害とはいえず、原告の主張する精神的苦痛も、回復し難い特別のものとは認められないのであるから、精神的損害ともいえない。

第三  被告USIUとの間における国際裁判管轄等に対する判断

一  本件は、日本人が外国法人に対して提起した損害賠償請求訴訟であるが、国際裁判管轄については、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理に従つて決定するのが相当であるところ(最高裁昭和五五年(オ)第一三〇号同五六年一〇月一六日第二小法廷判決・民集三五巻七号一二二四頁)、被告USIUは、カリフォルニア州法に準拠して設立され、同州内に本校を有する学校法人ではあるが、大阪府岸和田市野田町一丁目五番五号にその「営業所」(民訴法四条)ともいうべきUSIU日本校を設置していたものであり、また、原告は、同校において被告USIUが実施した教育等についての損害賠償を請求するものであるから、右被告をわが国の裁判権に服させるのが相当である。

また、その準拠法は、不法行為については法例一一条一項、債務不履行については法例七条一項により、いずれも日本法によることになる。

二  なお、被告USIUについて、前記第二の一(争いのない事実等)5記載のとおり、チャプターイレブンの手続が開始された事実は認められるが、米国における右手続が日本においてその効力を有するものでもないから(破産法三条二項、会社更生法四条二項参照)、同被告の当事者適格が失われるものではないと解するのが相当である。

第四  争点1(被告USIUの不法行為責任)及び同2(同被告の債務不履行責任)に対する判断

一  前記争いのない事実等に《証拠略》を総合すれば、平成元年度USIU日本校学生募集について、次の事実が認められる。

1  被告USIUの平成元年度入学生に対する表示及び説明

(一) 被告USIUは、昭和六三年から、USIU日本校入学希望者に対し、USIUに関する入学案内を配付していたものであるが、その概要は次のとおりであつた。

(1) 資格等について

〈1〉 被告USIUは、サンディエゴ(本校)、ロンドン、メキシコシティ、ナイロビ、ウィーン、西ドイツ(ウィスバーデン)及び日本の七か国にキャンパスを有し、学生は、右各国USIU校間を単位を失うことなく自由に編入でき、右各国USIU校においても、大学・大学院基準協会許可の単位及び学位(准学士、学士、修士、博士号)が授与される。

〈2〉 被告USIUは、米国大学基準協会の認可を受けているから、他の全ての米国大学への単位互換や転入が可能である。

〈3〉 USIU日本校の教育プログラムは、次のとおりである(別紙「入学から卒業までのフローチャート」参照)。

USIU日本校の入学希望者はEPTテスト(英語力判定テスト)を受け、入学判定がなされた後、ESOLコースに進む。

ESOLコースを修了すると、一定の基準(G.P.A.高校成績評定)により、教養学部(一般課程・学位課程(一般課程は、USIU日本校だけに設置された二年間の課程であり、一年次と二年次の学期末の編入判定で一定以上の成績と認められた学生が学位課程に進むことができる。))に進むことになる。

学位課程に進んだ学生は、修了後(二年)は、学部三年生となり、理系・文系のいずれかから専攻を決め、専門課程に進み、これが修了すると、USIUの学位を取得して卒業する。

〈4〉 USIU日本校の学生が海外校に編入するには、次の条件が必要である。

[1] ESOL学期末のEPTテスト(進級判定)で一定レベルと判定された場合は、サンディエゴ本校、ヨーロッパ校のESOLコースに編入することができる。

[2] 入学時の入学判定でEPT合格(TOEFL五五〇点以上が目安)、高校成績評定が三・五以上である場合は、直ちに各国USIU校の学位課程に編入することができる。

(2) 教育方法について

〈1〉 被告USIUは、「語学コンピューター・ラボプログラム」を開発しており、USIU日本校のカリキュラムは、特に日本人学生がより効果的に英語を話したり、講義を聞き取り、書く力をつけるために作られている(USIU最新語学学習であるコンピューター・システムは、コンピューター・ランゲージ・ラボ(語学学習装置)用に開発されてきた画期的システムであり、例えば、学生が外国語を発音すると、それがコンピューターのスクリーンにビジュアル化され、自動的に、教師の正しい発音の映像と比較され、直ちに矯正される。)。

〈2〉 ESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされ(「話す」に関するクラスについては右四つのレベルが例示されている。なお、入学試験に際し行われる「英語」の試験は、聞く、書く、読む及び文法の能力判定テストであつて、レベル分けを目的とするものであり、合否のためではない。)、右各レベルのコース内容は次のとおりであるが、初級でスタートした学生であつても、毎学期一レベルずつ進級していけば、四学期でESOLコースを修了し、学部への進級が可能であり、年四学期制のUSIU海外校で履修すれば、一年間で学部への進級が可能となる。更に、ESOLコース修了に要する時間としても、日本の平均的高卒者一五名がESOLコースに入学した場合のデータによれば、前記で二、三名、後記で計約一二、三名の者がEPTテストに合格する。

レベル コース内容

初 級 Eng 九〇 英語入門

Eng 九一 初級英文法・英作

Eng 九二 初級リスニング・スピーキング

Eng 九三 初級リーディング

中 級 Eng 九四 中級英文法・英作

Eng 九五 中級リスニング・スピーキング

Eng 九六 中級リーディング

中上級 Eng 九七 中上級英文法・英作

Eng 九八 中上級リスニング・スピーキング

Eng 九九 中上級リーディング

上 級 Eng 一〇〇A上級英文法・英作

Eng 一〇〇B上級リスニング・スピーキング

Eng 一〇〇C上級リーディング

(3) 教育スタッフについて

〈1〉 USIUの日本校の特色としては、被告USIUは、教授巡回システム(学期毎にUSIU本校の教授陣が各校を巡回し、各USIU校を教えるシステム)を採用し、USIU日本校の水準を本校のレベルに保つ。

〈2〉 USIU教授陣は、全て博士号又はこれに準ずる資格を有し、ESOLコースの授業も、USIU本校において資格を認定された経験豊富な講師陣(ネイティブスピーカー)により行われる。

(4) USIU日本校の今後の展開について

〈1〉 現在、学校法人化を計画している。

〈2〉 「国際経営・経済学部、国際関係学部」の二学部(定員合計五〇〇名)を設置するほか、TESL、経営学の修士課程のコースを設ける予定であり、平成五年(一九九三年)には、学部増設、大学院の設置等を行う。

〈3〉 その学生の半数を日本人、残りの半分を世界各国からの学生で構成するインターナショナル・キャンパス的な総合大学をめざす。

(5) 顧問について

USIU日本校の顧問としては、次の者が就任しているとされ、うち村上和雄については、その推薦文まで掲載されていた。

伊勢芳吉(USIU理事、元ダイハツ工業株式会社社長、大阪府技術協会理事)

千 宗室(裏千家家元)

林健太郎(参議院議員、元東京大学学長)

椎貝博美(前筑波大学副学長、教授)

村上和雄(筑波大遺伝子研究所所長)

岡田 実(大阪大学名誉教授、元大阪大学学長)

(二) また、被告USIUは、平成元年度USIU日本校入学希望者に対し、別紙「アジアの拠点としての米国国際大学日本校、大阪府岸和田市に開校」及び別紙「日本で初めての国際間編入システムをもつた国際大学日本校岸和田に開校」と題する各書面を配付していた(なお、被告USIUが、平成元年度入学出願者に対して配付した入学校に関する選択通知書には、USIU日本校及び東京校のいずれも入学希望者が定員に達すれば締め切る旨の記載があるものの、「一九八九年度入学要項」及び前記入学案内中の入試要項欄には、募集人員は推薦入学六〇名及び一般入学一四〇名、修業年限はカレッジ二年との記載がある。これに対し、その配付時期は明確ではないものの、「USIUの特色」と題する書面には、ESOLコースは全ての入学希望者が入学することができる旨の記載がある。)。

(三) 平成元年度入学生であつた原告も、平成元年二月実施のUSIU日本校の受験説明会において、同被告の職員の甲斐田から、基本的には前記入学案内等に沿つた説明を受けたほか、次のような説明も受けていた。

(1) USIU本校の教授が同日本校のESOLコースを担当するために派遣される(右山本実も、被告USIU側から、同校についてはサンディエゴ本校から教師を送つてくる旨の説明を受けていた。)。

(2) 教養課程は平成元年九月から開き、平成元年度入学生に限り、ESOL九七のレベルに属する学生であつても、実力のある者は、右課程に進学することができる。

(3) USIU日本校の学校法人化は、現在申請中であつて、すぐにでも実現する。

右のうち、学校法人化に関する認定について、被告USIUの職員である甲斐田や山本は、当初、入学志願者等からの学生募集に関する問い合わせの電話において、その事実がないのに、大阪府私学課と学校法人化について話を進めている最中であるとか、右手続の申請中である旨返答していたことにつき、同課から、虚偽の内容の説明をしないようにとの指導を受けたため、以後、法人化に向けて計画中で、そのための準備を進めているとの内容に説明を変更した旨供述するが、仮に、大阪府による指導の事実が認められるとしても、被告USIUにおいて、学校法人化の実現は、学生の安心感につながり、多数の入学者を見込める点で、有力な宣伝材料の一つとして考えていたことが窺われるのであるから、右指導を受けたことから、被告USIUの職員が電話による返答においてはともかく、受験説明会における口頭の説明においてまで、前記のとおり説明の内容を変更したかは疑わしく、甲斐田らの前記供述は、《証拠略》に照らして、直ちに信用することができない。

また、原告は、山本から、サンディエゴ本校にスペイン語講座がある旨の説明を受けた旨供述し、確かに、平成元年度入学案内中、USIUメキシコ校にはスペイン語とスペイン文学コースの存在が明記されているのに対し、サンディエゴ本校にはそのような記載が存しないところからすれば、原告において前記説明に対応する質問を行つたかのようでもあるが、山本はこれを明確に否定していること、原告は、被告USIUの受験説明会時における希望キャンパスとしてナイロビ校やメキシコ校を選択し、その陳述書中にも、「スペイン語と演劇の専攻希望のため、USIU本校にある視覚芸術学部とメキシコ校のスペイン言語と文学コースに興味を持つた。」、「被告USIUの配付したパンフレットには、メキシコ校の一年間(三学期)の授業料、寮費、食費はサンディエゴ校の約三分の一の約五三万円であつたが、日本校入学後に発表された総費用は一〇〇万円を超える。」、「多分最初に行くであろうメキシコ校」などとメキシコ校への進学希望もかなり具体的に有していたものと窺われること、原告本人尋問の結果中、外国語学部という趣旨ではなく、スペイン語の授業を指して質問したにすぎないと思われる部分も存すること等に照らすと、原告と山本との間において、サンディエゴ校とメキシコ校を混同した質疑応答がなされた可能性を否定することができないのであるから、原告の前記供述は信用することはできない。

2  平成元年度における被告USIU及び同日本校の実態

(一) 資格等について

被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィースバーデン)にはキャンパスを有しておらず、同被告のエクステンション・コースを設置しているにすぎなかつたが、被告USIUは、学生募集に有利であると考え、これらの都市にもキャンパスがあるとしていたものであつた(これに対し、平成二年度入学生に対する入学案内等においては、その作成時に同被告職員から問題を指摘されたこともあつて、右記載は削除されるに至つた。)。

また、USIU日本校は、WASCから、USIU本校の分校である旨の認定を受けていなかつた。

(二) 教育方法について

(1) USIU日本校では、授業のカリキュラムは決められていたものの、「語学コンピューター・ラボプログラム」は実施されていなかつた。

(2) USIU日本校では、九七a、九四、九一及び九〇のクラスには分けられたものの、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとにクラス分けがなされることはなかつたため、学生の能力は、同一クラスであつても、各分野によつては個人差が著しいこともあつた。

また、被告USIUとしては、教室との関係で平成元年度入学可能人数を二〇〇ないし二二〇名程度と考えていたが、三二四名もの入学を認めたため、若干の入学辞退者がいたものの、一クラス当たりの学生数は当初約二五名となり、椅子や机の割当てのない学生もいたばかりか、その授業についても、一つの教室をベニヤ板のようなもので二つに仕切り、当初は上部数十センチメートルの隙間があり、同一時間に一人の教師が二つの教室を掛け持つて教えるなどしていたため、最初の二、三日は隣の教室からの声が喧しく、学生から被告USIU側にクレームがつけられるような有様であつた。

(三) 教育スタッフについて

平成元年四月当初のUSIU日本校の教育スタッフは、後記(1)記載のとおりであつたが、ケン・オートン以外に本校の現職スタッフは存せず、また、同校にサンディエゴ本校の現職教授が巡回してくることもなかつた(これに対し、被告USIUは、同日本校開校当時を除き、USIU本校から直接派遣された教授は八、九名存し、その後その数は増加している旨主張し、これに沿うかのような山本の供述も存するが、右供述は、本校で教鞭を取つていた者ではなく、サンディエゴにおいて、本校と契約した後、日本校に送られてきた者を指すものであつて、また、被告USIU自身、サンディエゴに生活の本拠を有する教育スタッフの多数の者が一時期に日本校に異動することは、本校の教育活動に支障を来し、実現不可能であることを認めているのであるから、右供述に沿う事実が認められるとしても、前記認定を妨げるものではない。)。

また、USIU日本校開校当初の教育スタッフは、平成元年九月(秋学期)には、後記(2)記載のとおり、一新されるに至り(なお、原告は、右一斉退職の原因は、USIU日本校が学校法人化されず、これらの者に対する就労ビザが発給されなかつたためであると主張し、これに沿う山本の供述のほか、ディビット・ベイカについては、その雇用契約期間が一九八九年(平成元年)四月二一日から一九九〇年(平成二年)四月二〇日までの一年間とされていた事実も認められるが、山本自身、右供述が推測であることを認めているばかりか、教育スタッフ全員が就労ビザを有していた旨の甲斐田の供述の存在に照らし、山本の前記供述は信用することができず、ディビット・ベイカの雇用契約期間及び同人を含む他の教育スタッフの一斉退職の事実をもつて、原告の主張事実を推認するには足りない。)、平成二年一月からは、後記(3)記載の者も教育スタッフとして加わるに至つた。

(1) 校長

ケン・オートン USIU本校副学長、東洋学博士

学部長

オスカー・キャネドー 英語教授法博士、スペイン語博士

教員

ペリー・アレクザンダー 国際関係学博士、神学博士

ディビット・ベイカ 英語教授法博士、管理学修士

ルイス・クレイン 英語教授法博士

(リビー) 国家特別研究者賞受賞者

スザンヌ・マークス 英語教授法博士

フランシス・スベアーズ 教育学修士

アン・アサリー 英語教授法博士取得中、ESL教師

フランク・クレイポール 学士、ESL教師

ディビット・モロウ 学士、ESL教師

(2) DENISE INCORONATO ESOL教授法修士、心理学学士、ESOL教師育成経験数年

JUDY KING 音楽科学士

カリフォルニア州教師免許、英語教師

DEE HOLMAN 教育学修士、同学士 英語教師育成、英語教師

JEANNE LIPTON 英語教育修士、芸術学士

ESOL教師経験五年

ROBERT MCKENNA 英文学修士、同学士

カリフォルニア州教師免許(教師経験三〇年)、同州立大学教師三年、サンディエゴ市立大学教師三年、マレーシアESOLアドバイザー

TODD ENDRESS 財政学学士、英語教師

BILL FADDEN 英文学修士、同学士

ESOL教師(メキシコ、ベトナム)

ROBERT NEFF カリフォルニア州教師免許

TIM BROOKS 国際財政学修士、経済学学士

ESOL英語教師(メキシコ)二年

LYNN BROOKS 政治学学士、複数教課教師免許

ESOL教師

LYNN SCHROEDER 英文学修士、同学士

ESOL教師経験二五年、サンディエゴ市立短大教師、イラン(テヘラン)でESOL教師

CASSANDRA WADKINS ESOL修士課程、英文学学士

サンディエゴ市コミュニティーカレッジ教師、カリフォルニア州ESOL教育会メンバー

(3) REYMOND HICKS 英文学学士

セントメアリー大学英語講師

CHRISTIAN JON DECKER 生物科学教師、野生動物学学士

成人学校教員、中高校教員

DEBORAH ALBERT 教育学修士、英語第二外国語学士

英語第二外国語教師(三年)

成人学校教員(一年)

BRADLEY JOSEPH CAMERON 薬学学士、英語講師(二年)

(四) USIU日本校のその後の展開について

(1) USIU日本校では、前記第二の一(争いのない事実等)5記載のとおり、その閉校に至るまで、専門学部(専門課程)はもとより、教養学部(教養課程)も設置されることはなく、その学校法人化も実現されるには至らなかつた。

(2) もつとも、被告USIUとしては、基本協定締結時には、一学期間で教養課程進学資格者が一〇名以上出るとの予想の下に、平成元年九月に右課程を開設する意向であつたが、当初の予想と実際の進級結果が余りにも大きかつたことから、次のような措置を採ることにした。

〈1〉 被告USIUは、平成元年八月二日、同日本校の九七クラス所属の学生のうち、希望者を対象として、EPTテストを行う(なお、ESOLコースでは、入学時のEPTテスト及び学期末テストにより、各学生のレベルを決定するが、学期開始後に授業における学生の実力を見た上で、大学が必要であると認めた場合にはEPTテスト又は学期末テストにより判定したレベルから、学生の学力向上に最も適したレベルへ移す場合があるとの説明もあつた。)。

〈2〉 平成元年度春学期期末テストにおいて一〇〇レベルに進級した学生については、同秋学期に、必修として一〇単位のESOLコースのほかに、「英語一〇五(USIU学部入学基準を満たしている学生の場合、USIUサンディエゴ本校で学部コース五単位と認められる学科)」を選択することができる(もつとも、右制度は、学生が早く学位を取得することができるために設けられたものであつて、ESOL一〇〇レベルを合格すれば、学部に進級することができるものの、不合格となればESOL一〇〇を再履修しなければならなくなるため、学生は右再履修につながるようなコース選択を避けるべきである旨の注意もあつた。)。

(五) 顧問について

被告USIUのパンフレット等に顧問として記載されていた六名の著名人のうち、林健太郎と岡田実については、知人の依頼や紹介等により、USIU日本校の顧問就任を引き受けるかのような対応をとつたことがあり、また、伊勢芳吉については、被告USIUを大阪府や社団法人大阪工業会に紹介したことがあつたが(なお、USIU日本校の学校法人設立準備会委員名簿によれば、伊勢芳吉は同会長に、岡田実は同会長代理に就任している。)、いずれも正式な顧問契約までは締結したこともなく、顧問料等を受領したこともなく、その余の者については、被告USIUから、同日本校の顧問への就任の依頼すらなかつた。

3  被告USIUの事後的説明

(一) 被告USIU(ケン・オートンUSIU副学長、USIU日本校学部長)は、同日本校の学生やその父兄に対し、一九八九年(平成元年)八月八日付け「USIUの入学と進学に関する基本的意図」と題する書面(その内容の概要は次のとおり。)を配付した。

(1) 入学定員について

一五〇名という当初の発表は、絶対的定員ではなく、一月末の予測数にすぎず、三二四名の入学を許可したのは、現に入学応募した学生で実力があると認められる人数が予測数以上あり、USIU側としても、教師数と教室容量にその学生を受け入れる余裕があつたためである。第一期学生の数が多いほど、それらの中から、より多くの専攻志望が出ることにつながり、大学として一つでも多くの学部をより早く開く準備が整うことにもつながる(被告USIU(同日本校事務局)の一九八九年(平成元年)一一月一八日付け米国国際大学日本校新聞にも右同様の記載がある。)。

(2) クラスについて

一クラス当たりの学生数二〇名という点も、学期途中に進級した方がよい等の場合には、多少変更することもあるが、一クラス当たりの人数が増加することになつても、教授陣と学部長とが十分な検討をした上で、授業内容の質に違いが出ないように配慮している。

各学生をそれぞれのレベルに最適なクラスに入れるために、時には一クラス当たりの学生数が一〇名の小クラスから二五名のクラスになる場合もあるが、この方が最も効果的な成果を収めることにつながる。

九月四日からの新学期に在学予定の学生数は三一二名であり、そのクラスの内訳は次のとおりであるが(したがつて、ESOL一クラス平均の学生数は一九・五名となる。)、全ての授業は八教室で運営することができるのに対し、現在の仮校舎は一二教室もある。

クラスのレベル  クラスの数

英語  一〇五  一

--------------

ESOL一〇〇  一

ESOL 九七  三

ESOL 九四  六

ESOL 九一  五

ESOL 九〇  一

(合計一六クラス)

(3)教師について

各レベルの授業内容の目的、構成、教科書、教授方式及び教師技能に関する説明は、教授摘要に明記され、各教授は各クラスを担当するにあたり、各々の教授摘要に従い、授業から採点までを一定の規格に基づき行つている。

また、教務主任は、常時、各教師の基準を調べることができる方式になつているため、その基準に漏れたり、遅れたりする教師を管理するが、それでも右基準を守れない教師は解雇し、補給したりする(このように、教師各員も、本校と同じ方式で採点評価される。)。

教師の資格については、本校の学部責任者と管理部門担当者によつて厳格に書類審査をした上(審査対象となる書類は、各教師の学校での成績、履歴書、教授経験、教授成績及び推薦書であり、一項目でも高い教育水準に満たないと判断される場合には、不採用となる。)、面接し、採用している。

(二) また、被告USIUは、オニオン21と称するミニコミ紙に同日本校を詐欺商法と中傷する記事が掲載されたとして、平成元年九月一三日、同校PTAを開催し、また、同年一〇月、次の内容の書面を配付したり、翌一一月八日に再度同校PTAを開催したりなどして、次のような弁解に努めていた。

(1) USIU日本校のコースは、全て米国大学における完全な資格保持者である教授陣による授業を行つており、アルバイト講師は一人もいない。

(2) USIU日本校の教師全員は、公式の教師の資格と経験を持つており、正式の雇用契約に基づき一年契約を締結しており、観光ビザの教師は一人もいない。

(3) USIU日本校には、サンディエゴ本校が永年の経験に基づき独自に開発したコンピューターによる英語授業があり、専任の常勤教師がいる。

(4) ESOLコースの授業は、学生と教授との比率は、約二〇対一を基準としている。

(5) USIU日本校は、現在、大阪府私学課の指導の下に、学校法人の申請をする具体的準備を急ぎ進めている。

(6) USIU日本校のESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各クラスが次の四つのレベルで構成される(初級でスタートした学生であつても、毎学期一レベルずつ進級していけば、四学期でESOLコースを修了し、学部への進級が可能であり、年四学期制のUSIU海外校で履修すれば、一年間で学部への進級が可能となる。)。

初 級(九〇ないし九三)

中 級(九四ないし九六)

中上級(九七ないし九九)

上 級(一〇〇Aないし一〇〇C)

(7) 平成元年九月には、USIU日本校学生のうちから、サンディエゴ本校に二八名、ヨーロッパ校に二名の者が編入する。

(三) 更に、被告USIUが、平成元年度秋学期終了後に、同日本校学生に対し、配付した書類中にも、次のような説明があつた。

(1) ESOLコースのクラス分けについて、前記(二)(6)記載のとおり。

(2) 学生の学力向上のためのプログラム行事として、他の大学にないシステムとして、被告USIUが独自に開発した英語学習システムであるコンピューターラボがある。

(3) USIU日本校及び東京校の編入状況

キャンパス   編入人員

一九八九年九月 一九九〇年一月

サンディエゴ本校 二八名 二一名予定

ヨーロッパ校    二名 四名予定

四  なお、被告USIUは、平成元年一〇月二四日、同日本校学生に対し、大学教養課程進学クラス入試受験の有無やUSIU教養課程入学の希望の有無に関するアンケートをとつたこともあつたが、うち海外校編入希望者に対し、編入は全ての学生に認められるものではなく、期末テストにおいて基準のレベルを超えていなければならないことなども再度通知していた。

二 被告USIUの虚偽又は誇大な表示及び説明の有無について

1(一)  資格等について

(1) キャンパスの点について、被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィスバーデン)におけるエクステンション・コースの存在をもつて、虚偽の表示及び説明はない旨主張するが、右コースの教育、保有施設等の内容が明確でないばかりか、同被告自ら、その平成二年度入学案内において、右各キャンパスに関する記載の問題性を指摘された結果、これを削除するに至つたのであるから、平成二年度と対比すれば、平成元年度入学案内においては、より多くのキャンパスを有する信用のある大学であるとの誇大な表示及び説明があつたというべきであり、この点に関する被告USIUの前記主張は採用することができない。

(2) 単位及び学位等の授与の点については、学部(課程)の設置と密接に関連するものであるから、後記(四)で判断する。

(二)  教育方法について

(1) 授業カリキュラムについて、原告は、入学当初は明確に定まつていなかつた旨主張するが、前記認定の事実によれば、右カリキュラムは一応定められていたのであるから、この点に関する原告の主張はその前提を欠くか、又は極めて小さな齟齬があつたにとどまるから、採用することができないが(なお、原告本人の供述中、時間割の定めどおりに授業が実施されていなかつたとする部分も存するが、同人自身、授業の選択は担任教師の自由裁量により、その指導も非常に熱心であつたことも認めており、学生の理解度等に応じてカリキュラムを変更することもありうるから、これをもつて違法ということはできないというべきである。)、「語学コンピューター・ラボプログラム」実施の点で、虚偽の表示及び説明があつたことは優に認められるところである。

(2) クラス分けについて、被告USIUは、合計一六種類のクラス分けを行うと表示及び説明したことはない旨主張し、なるほど、入学案内中、リスニングとスピーキングを一まとめにしたクラス分けがなされるにとどまるかのような記載も存するが、被告USIUの主張する「ESOLコースにおいては、読む、聞く、書くの能力が重視され、英会話能力は必ずしも必要とされていないので、英会話能力とクラスの各レベルは直ちに対応するものではない」ことも、右各レベルに沿つたクラス分けを行うことの合理性までを否定するものではなく、むしろ、右入学案内において、合計一六種類のクラス分けを行う旨が具体例を示して表示されていること、その入学試験もレベル分けを主眼とする旨の説明も存すること、平成元年度入学生から実態との齟齬に関する抗議を受けながら、平成二年度においても、平成元年度と同様の表示及び説明を行い、その結果、「話す」以外の分野においてではあるが、各クラス分けがなされていること等に照らすと、合計一六種類のクラス分けを行うと表示及び説明していたことは明らかであつて、それにもかかわらず、平成元年度春学期の段階で四種類のクラス分けがなされたにとどまるのであるから(なお、同秋学期から「英語一〇五」のクラスが新たに設置された事実は認められるが、右は、教養学部(教養課程)を設置しないことの代替措置にすぎないのであるから、ESOLコースのクラス分けとしての意義を有するものではないというべきである。)、この点についても、被告USIUには虚偽の表示及び説明があつたというべきである。

(3) なお、原告は、被告USIUが、平成元年度において、募集人員(一五〇名)を大幅に超える入学者を認めた結果、一クラス当たりの学生数も当初の説明(一五ないし二〇名)を超えた点をもつて、同被告に虚偽の表示及び説明があつた旨主張するが、入学諸条件についての最終的表示ともいうべき入学要項等には募集人員を合計二〇〇名とする記載があり、これに沿う山本の供述も存するところであつて、一クラス当たりの学生数も、確かに、各クラスの学生数の上限を画したものといえなくもないが、一定の幅を有する表示であることをも総合すれば、その言わんとするところは、右程度の人数を基本とした少人数制を採用している旨を表示したというべきところ、入学当初の予定超過人数は五名程度にとどまり、この点に関する被告USIUの事後的説明も加味すると、平成元年度秋学期からは、平均二〇名以下となつたことが窺われるのであつて、その実態として、学生数それ自体において少人数制の趣旨を損なうものであつたとまではいえないのであるから、虚偽又は誇大な表示及び説明があつたと認めるには足りず、この点に関する原告の主張は採用することができない。

(三)  教育スタッフについて

(1) 被告USIUは、教授巡回システムは学部に関するものにすぎない旨主張するが、平成元年度においては、同二年度と異なり、パンフレット上に明確な区別は存せず、他方、入学説明会等における同被告側からの口頭の説明と相まつて、右システムがESOLコースにも適用される旨を表示及び説明したというべきであるから、前記主張は採用することができず、また、被告USIUは、「USIU本校の教授陣」は、同本校が責任をもつて、その資格を審査し、スタッフとするという意味であり、本校の現職教員を指すものではないとも主張するが、教授巡回システムに関する説明を前提とする以上、右主張も到底採用することができない。

(2) 次に、被告USIUは、ESOLコースを担当する教授の資格について、一部齟齬があつたことを認めつつ、右齟齬は不法行為を構成するほどのものではない旨主張し、確かに、原告の担任であつて、その授業も全て担当していたディビット・ベイカは、英語教授法博士の資格を有していたものであるが、被告USIUにおいて、同日本校の教授全てが、博士号又はこれに準ずる資格のみならず、英語教授法の資格を有する旨を表示及び説明したことは明らかであるところ、たとえESOLコースには直接関連しない分野であつたとしても、最高学位ともいうべき博士号又はこれに準ずる資格を指導教授が有することは、その教育を受けようとする者にとつて、大きな信頼を寄せる要素であり、いわんやESOLコースにおける関連資格の有無は、その教育内容に直結し、右資格を有する者による授業であるか否かは教育内容の本質的要素に影響するものというべきであるから、右齟齬は無視しうるものではなく、原告の実際の担任がその表示及び説明どおりの資格を有していたことも、その損害の算定にあたつて考慮するは格別、日本校全体としては有資格者が一部の者にすぎなかつた以上、右本質的要素に関する虚偽性を否定することはできないというべきである。

(3) なお、原告は、ESOLコースの教員が学期ごとに交替した点も虚偽の表示及び説明として主張するかのようでもあり、その前提となる事実は前記一2(三)認定の限度で認められ、これに沿うかのような被告USIUの事後的説明も存するが、教員の通年契約に関する事前の表示及び説明は何ら存せず、むしろ教授巡回システムに関する説明が学期を単位としていることに照らすと、原告において、入学生募集時に通年教育に関する信頼を寄せていたともいえないのであるから、この点に関する原告の主張は、採用することができない。

(四)  USIU日本校の今後の展開について

(1) 学校法人化について、被告USIUは、平成元年度入学生募集時には特段の手続も進行していなかつたにもかかわらず、すぐにでも実現するかのように説明していたものであるから、この点につき虚偽の表示及び説明があつたというべきである。

(2) 教養学部(教養課程)の設置についても、被告USIUは、これが予定である旨明記していることをもつて、虚偽の表示及び説明ではない旨主張し、なるほど、USIU日本校について説明した書面には、いずれも「予定」の表示が存するところではあるが、同被告は、平成元年度入学生募集時に、教養課程進学資格者が一〇名以上あることを同課程開設の条件と考えていたにもかかわらず、右条件に関する説明を何ら行わず、かえつて、被告USIU側の口頭による説明やESOLコース修了に要する期間に関する表示をも総合すれば、右「予定」は何らの留保の付されていない確実なものと表示及び説明していたというべきであるから、WASCの認可の点について判断するまでもなく、右齟齬の部分について虚偽の表示及び説明があつたというべきである。

また、専門学部の設置についても、「予定」である旨表示され、かつ、二年以上も先のことではあるものの、具体的に開設学部、開設年月及び募集人員を示した上での表示であること等に照らすと、右「予定」も確実に実現されるものと表示されていたというべきであるから、右齟齬の部分について虚偽の表示及び説明があつたというべきである。

(3) なお、原告は、平成元年度の半数が外国人とする本格的国際キャンパスの建設の点も虚偽の表示及び説明があつたと主張するかのようでもあるが、右は、外国人学生の意思を考慮することなく、被告USIU側において独自に実現しうる性質のものではなく、入学案内上の表示も「めざす」とあるように、せいぜい同被告の将来の希望的展開を述べたにとどまるものとも解されるから、この点に関する原告の主張は採用することができない。

(五)  顧問について

USIU日本校のパンフレットに記載された六名の著名人のうち、林健太郎と岡田実については、顧問就任を承諾するかのような対応を採つており、また、伊勢芳吉についても、被告USIUを大阪府等に紹介した経緯に照らすと、顧問就任に関する推定的承諾があつたとも考えられるところであるから、その手続のみが履践されなかつたともいえ、直ちに虚偽の表示及び説明があつたとまではいうことができないが、その余の三名については、顧問への就任の依頼はもとより、同被告との特段の接点も見い出しえないのであるから、これらの者の顧問就任については虚偽の表示及び説明があつたというべきである。

これに対し、被告USIUは、顧問に関する表示が原告の入学の動機にほとんど影響していないことを理由に不法行為の成立を否定し、右は因果関係を否定する趣旨の主張と解されるが、著名人の顧問就任は当該大学の名声信用を高める一助を成すものであつて、特にその推薦文まで掲載されていたことに鑑みると、学生の入学動機に少なからぬ影響を与えたことは明らかであるから(平成元年度入学生の父兄の一人である今西洋子は、顧問に就任したとされる人物の肩書からUSIU日本校が信用できる学校であると結論を出した旨明言している。)、前記主張は採用することができない。

2  したがつて、被告USIUの表示及び説明は、右1の虚偽又は誇大と認められる限度で、実態と齟齬するものであつて、右は、右説明等を信じてUSIU日本校に入学した原告ら学生の信頼を著しく裏切るものというべきであるので、違法というべきであり、かつ、右のような同被告の内部的事情について、虚偽又は誇大な表示及び説明があつた以上、特段の事情なき限り、その過失を推認することができるところ、右特段の事情の認められない本件においては、この点に関する被告USIUの過失を推認することができるというべきである。

これに対し、被告USIUは、学校法人化及び教養学部(教養課程)の開設の点について、いずれも平成元年度入学生募集時には予見しえなかつた旨主張するが、前者については、手続申請中などと、その同時には全くありもしない事実を捏造しており、また、後者についても、自己の想定する教養学部(教養課程)開設の条件を明示することは極めて容易なことであつたにもかかわらず、日本における十分な開校実績もないまま、安易な予想の下に、これを実現可能と考えていたにすぎないのであるから、前記主張は採用し難いといわねばならない。

三  被告USIUの債務不履行責任について

原告の債務不履行に基づく損害賠償請求は、仮にその主張する契約内容を前提としても、前記二で判示した限度で理由があるにとどまり、遅延損害金の起算点の点では不法行為による方が原告に有利となるから、その判断を省略する。

第五  争点3(停学処分)に対する判断

一  前記争いのない事実等に《証拠略》を総合すれば、原告に対する停学処分について、次の事実が認められる。

1(一)  被告USIUは、平成元年八月八日ころから、同日本校の教育について不満を有する学生らに対し個別面談を実施し、原告も右面談を受けたものであるが、同人は、甲斐田との面談を希望しており、被告USIU側もこれを認める旨を告げながら、同月一四日には、山本が面談したにすぎず、しかも、その説明も原告の納得のいくものではなかつた。

(二)  ところが、被告USIUは、八月一五日、原告に対し、甲斐田が直接面談したい旨を連絡してきたため、原告もこれに応じたところ、当初は右山本が前日と同様の応対を繰り返すのみであり、その後、甲斐田との面談は実現したものの、既に用意してあつたメモを棒読みするなど、その応対が事務的であつて、従前の被告USIUに対する不満もあつたことから、原告はこれに激昂し、側にあつた椅子を人のいない学生ラウンジの方向へ下手投げの要領で投げつけるに至つた(しかしながら、その結果、器物が破損したり、他人が傷害を負つたりしたことはなかつた。)。そこで、原告の傍らにいた山本は、原告に対し、「何するんですか。」と言いながら、同人の腕を掴んでこれを制止しようとしたが、原告は、右制止も振り切つて山本を睨み返すなどした。

(三)  被告USIU(山本実)は、数日後、原告に対し、同被告側で話し合つた結合、このままでは停学になるかもしれないので、反省文又は嘆願書の類を書いて送付されたい旨を連絡したが、原告は、別に謝罪する理由はないものと考えながらも、両親の指導もあつたことから、謝罪を意味する言葉を一切用いることなく、「学校の方針は理解したので、九月から引き続き勉強したい」旨を書いた文書を被告USIUに送付するにとどまつた。

(四)  被告USIUは、平成元年九月一日、原告に対し、前記第二の一(争いのない事実等)4記載のとおり、停学処分を行い、その旨を通知したものであるが、右通知書には次のような通知もあわせてなされていた。

(1) 復学について

原告本人がUSIU日本校への復学を強く希望する場合には、〈1〉停学期間中、停学理由となつた行為を深く反省し、〈2〉停学の際に、停学嘆願書及びUSIU誓約書を提出することという条件のもとに復学を認める。

(2) 停学期間中は、被告USIU事務局が行う個別カウンセリング等への出席など被告USIUの指示に従うことが義務づけられている。

2(一)  しかし、被告USIUは、原告に対して停学処分を通知するにとどまらず、平成元年九月一四日ころまでに、学内の掲示板にこれを貼り出したため、右処分の事実は、USIU日本校学生に知れ渡るところとなつた。

(二)  これに対し、原告は、処分決定通知書に記載されていた被告USIUからの指示を暫く待つていたが、何らの指示もなかつたことから、これまでの被告USIUの対応に照らし、同被告には当初から学生らを騙す意図があつたものと考え、同被告に対し、平成元年一一月一一日到達の書面をもつて、詐欺を理由として右被告との教育契約を取り消す旨の意思表示をしたものであつた。

以上の認定に対して、原告は、停学処分は甲斐田の独断によるものと供述し、これに沿うかのような、右処分の最終決定は甲斐田によるものであつた旨の山本の供述も存するが、原告の前記供述は推測の域を出るものではなく、山本の前記供述も甲斐田の独断によることまでを直ちに意味するとは解されないところ、甲斐田自身も、右処分に関する関与自体は否定しないものの、原告に対する懲戒処分について、教育関係のアドバイスを行つていた者に相談し、被告USIU側にも連絡した上でのことであると供述しているのであるから、原告に対する停学処分の決定が甲斐田の独断によるものであつたこと、さらには、原告を他の学生に対する「見せしめ」としたと推認するには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。

二1  学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、若しくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である(最高裁判所昭和二八年(オ)第七四五号同二九年七月三〇日第三小法廷判決・民集八巻七号一五〇一頁、同裁判所昭和四二年(行ツ)第五九号同四九年七月一九日第三小法廷判決・民集二八巻五号七九〇頁)。

2  これを本件についてみるに、前記一認定の事実によれば、原告に対する停学処分は、十分な事実上の根拠を有するものであるから、「その決定が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合」に当たらないことはもちろん、原告において、被告USIUの対応に不満を抱くことがやむを得なかつたとしても、その有形力の行使は到底是認しうるものではないこと、被告USIUは、右処分の決定に先立ち、反省なき場合に選択されるであろう具体的懲戒処分まで示唆しながら、原告本人に反省を促す措置を講じたにもかかわらず、同人には反省の態度がみられず、被告USIUの教育方針に服する意思のないことを表明したとも解される対応に出たこと、実際に選択された懲戒処分も、当初の予告どおりのものであり、また、学外への永久的排除を意味する退学処分又は無期停学処分のような重い処分ではなかつたこと、停学期間中に被告USIUから原告に対する指示がなされなかつたのも、原告側から同被告に指示を仰ぐ措置を採ることもなかつたことからすれば、被告USIUとしては、原告は従前の反省なき態度を堅持していると考えていたとも解されるのであるから、著しく不合理なものとはいえないこと、被告USIUの決定した処分の動機に違法があつたとまではいえないこと等に照らすと、「社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合」にも当たらないというべきであるから、停学処分自体の当否に関する原告の主張は採用することができない。

3  また、被告USIUは、原告に対する停学処分の結果を学内の掲示板に張り出した事実が認められるが、右は、処分の結果という客観的事実を、学内に掲示したにとどまるものであつて、この点につき、格別害意を認めることはできないので、右の行為がその態様、目的等において、社会的相当性を逸脱するものとは認め難く、これをもつて直ちに違法ということはできないので、右の点に関する原告の主張も採用することができない。

第六  争点4(被告USIUの詐欺)に対する判断

原告は、被告USIUから、〈1〉サンディエゴ本校におけるスペイン語講座の存在、〈2〉平成元年九月までのUSIU日本校の学校法人化の実現及び〈3〉平成元年九月までの教養学部(教養課程)の設置の点について欺罔を受けた旨主張するが、前記第四認定の事実によれば、〈1〉についてはその前提を欠き、〈2〉及び〈3〉についても、確かに、虚偽の表示及び説明が混在していた事実は否定しえず、特に学校法人化については一部虚偽の事実を捏造していたことに照らすと、欺罔の故意があつたかのごとくであるが、その基本的計画自体は真に実在していたものであり、その後の学校法人化に関する経緯(後記第八の一4(三))における被告USIUの行動等に照らすと、同被告に欺罔の故意があつたとまでは推認するには足りず、他にこれを推認するに足りる証拠もないのであるから、いずれも採用することができない。

第七  争点5(被告USIUとの間における納入金返還に関する合意)に対する判断

一  前記争いのない事実等に《証拠略》を総合すれば、平成元年度入学生と甲斐田及びオートンとの交渉経過について、次の事実が認められる。

1  平成元年度入学生は、入学後間もなく、被告USIU側の教養学部(教養課程)設置等に関する当初の表示及び説明とその実態が異なることについて、被告USIUに抗議を申し入れていたが、その対応が一貫したものではなかつたこともあつて、右学生らは、平成元年五月下旬ころ、被告岸和田市に対しても、右同様の抗議を行つたこともあつた。

2  これに対し、甲斐田及びオートンは、そのような行動は、学校と学生との間の信頼関係を破壊するものとして、怒り、特に平成元年六月上旬ころ、甲斐田及びオートンと平成元年度入学生との対談においては、甲斐田は、右学生らに対し、USIU日本校学生のうち、被告岸和田市と接触したものがいたことを非難しながら、「学校の方針に不満な人は辞めていただいて結構です。お金は返しますから。」と告げたこともあつた。

右の対談の場には原告も参加しており、原告自身も、甲斐田及びオートンに対し、教養学部(教養課程)の設置等について質問したところ、甲斐田からは、やむを得ず右設置ができない場合は、同学部(課程)進学資格者については、自宅学習、無料聴講、待機中に相当する学費の繰越等の措置を採る旨の返答があつたにとどまつたにもかかわらず、原告は、その場では納得して引き下がり、その後も平成元年度春学期終了までUSIU日本校において勉学を続けていた。

3  なお、甲斐田は、平成元年度八月八日、平成元年入学生のうち九七aのクラスの学生及びその保護者との話し合いの場において、右2の学生の納入金を返還する旨の発言を否定するに至つた。

二1  原告は、USIU日本校の事務局長であつた甲斐田との間で、同校に不満があつて辞める場合には、その納入金を全額返還する旨の合意が成立した旨主張し、甲斐田の平成元年度入学生に対する「学校の方針に不満な人は辞めていただいて結構です。お金は返しますから。」との発言がなされた事実自体は認められるところではある。

2  しかしながら、右発言は、USIU日本校学生らが被告岸和田市に抗議行動を採つたことに対する怒りの気持ちの中で、感情の赴くままに、威嚇的に述べたものであつて、甲斐田の内心において、真実、その効果意思を伴つたものであるということはできないというべきであり、このことは、原告ら学生においても、容易に洞察しえたところというべきであるし、仮にそうでないとしても、原告も、右当時は返還を要求しなかつたこと等からすれば、甲斐田の前記意思表示は心裡留保(民法九三条但書)の可能性を否定しえないものであるが(なお、原告が右返還を求めたのは、甲斐田による前記発言の撤回があつた後のことでもある。)、さらに、右の点をひとまず措いて、甲斐田にそのような権限が授与されていたかについて判断するに、確かに、同人はUSIU東京校及び同日本校の事務局長の地位にあつて、同校の経理関係の仕事に携わつていた事実は認められるものの、甲斐田自身は、USIU東京校のみならず日本校についても、その資金管理は全て同本校の決定に従つていた旨供述するところ、一九八七年(昭和六二年)一月二三日の時点のものではあるが、法人設立の予算(資本金二五六五ドル、登記費用二二四八ドル)について、被告USIU(ラスト学長)に連絡した上で、その代理人としての権限をわざわざ書面をもつて授与されていること、同月二六日には、僅か二三〇ドル程度の法人印鑑作成費用の支出についても、右同様に個別の代理権の授与を受けていること、甲斐田の実際上の仕事としても、その在職中、USIU日本校の資金をUSIU本校の指示のままに送金していたこと、一九九〇年(平成二年)六月二七日には、マクモナグルがUSIU日本校の運営責任者であり、甲斐田らは同校に関する管理及び教育活動の方針を同人に報告するように通知され(なお、マクモナグルの就任によつて、甲斐田の従前の職務に特に変化はなかつた。)、同年七、八月ころには、甲斐田の権限は学生募集にのみ縮小され、甲斐田自身も、同年九月にUSIU日本校を辞職する意思を示し、被告USIUも、年度途中である同年一二月にはこれを認めるに至つたこと、甲斐田やオートンはUSIU日本校に常駐していなかつたこと等からすれば、甲斐田の右当時の権限は極めて小さなものにすぎなかつたものと推認されるのに対し、被告USIUが実際に行つた金銭的解決に関する提案は、USIU日本校の学生において、USIUシステムに登録することを希望しない場合は、資格ある学生に限つて、幾らかの現金を提供するというものにすぎず、かつ、その場合でも被告らを免責する旨の書面にサインすることまで要求するなど、極めて厳格な条件を課した上でのものであること等に照らすと、USIU日本校の学生らが不満があつて同校を辞める場合にはその納入金を何らの条件を課することなく全額返還するなどという権限が甲斐田に授与されていたとは認めるに足りないというべきである(なお、甲斐田と共に面談の場に同席していたオートンについても、同人は教務関係の仕事に携わつていたにすぎないのであるから、右権限の授与を認めるに足りない。)。

3  したがつて、甲斐田の前記意思表示が仮に真意に基づくものであつたとしても、その効果は被告USIUに帰属しないことになるから、この点に関する原告の主張は採用することができない。

第八  争点6(被告岸和田市の不法行為責任)及び同7(被告らの共同不法行為責任)に対する判断

一  前記争いのない事実等に《証拠略》を総合すれば、被告岸和田市の関与について、次の事実が認められる。

1  USIU日本校誘致に至る経緯

(一) 大阪府は、社団法人大阪工業会と共同して、従前から米国の著名大学の分校や研究施設の誘致を具体的に検討し、その基本的な考えを表した「米国大学を大阪に」及び「米国大学分校を泉州に」と題する各書面には、後記(1)ないし(3)記載の説明がなされていたものであるが、大阪府としては、その誘致する大学として、ボストン大学も選択の対象としていたものの、同大学は、学生募集、学校経営、学校内のカリキュラムの関係等に関する対応を、地方公共団体や企業に全面的に依存しようとするものであり、いわゆる「丸抱え」の状況であつたことから、その誘致は好ましくないものとして、被告USIUの誘致を進めていたものであつた。

(1) わが国の平成元年度にとつての米国大学誘致の意義

全期間、外国留学することと対比すれば、比較的少ない経費で米国大学に学ぶことが可能となる。また、日本分校をオリエンテーションの期間として活用し、十分態勢を整えて米国の大学で学ぶことができる。

(2) 運営主体についての考え方

米国の大学が独自の法人を設立する、あるいは日本側と共同して大阪において財団法人を設立し、この法人が米国大学と協議して、用地の取得や校舎、宿舎等施設の建設を行い、大学にリースする等の方法が考えられるが、種々の選択案について、今後具体的な検討を行う必要がある。

(3) 教科内容及び教授陣

大学コース又は大学院コースのいずれかを主とするか、ビジネス・スクールか、技術系かといつた教科内容及び教授陣については、主として米国の大学により決定される事項である。また、大学付属研究所の設置も考えられるが、いずれの場合でも、米国大学の分校・研究所として運営されることが望ましい。

(二) そして、被告USIU(ラスト学長、甲斐田)も、昭和六二年一〇月、大阪府の案内により、岸和田市のコスモポリス計画予定地を視察に訪れるなどし、昭和六三年三月一四日に開かれた大阪府議会商工農林委員会において、USIU日本校の土地条件さえ合致すれば、コスモポリス計画地域における分校開設を本格的に検討する旨の意向を示すなど、大阪府との間で誘致折衝を進めていたものであるが、右の時点では、被告岸和田市には直接そのような話はなく、また、被告USIU(ラスト学長)は、昭和六三年五月一三日、大阪府(同企画調整部国際交流担当理事大藤芳則)に対し、日本校開設のための次のような基礎条件を提示し、これが受け入れるならば、岸和田市へ進出する旨を表明し、その結果、八月一五日までに、大阪府と大阪工業会との間で、岸和田市に日本校を設立する旨の基本合意に至つたが、右基本合意の締結についても、被告岸和田市に事前の連絡は行われていなかつた。

(1) 大学運営のある期間が経過した後、土地についての権利が得られることが必要であり、具体的には、大学に与えられる総価値の四パーセントを毎年譲渡し、二五年間で全て移転させる(この二五年間に、被告USIUは、大学に四〇〇〇万ドルないし五〇〇〇万ドル相当の建物を建設し、一〇億ドル(日本円で約一二三〇億円)に近い予算を支出する。)。

(2) 学校施設を建設し、相当期間にわたつて、それらの支払を行うことができるようにするために、土地に担保を設定することができる必要がある。

(3) 新しい学舎が使用できるようになるまで待つことなく、今から授業を始めるためには、校舎建設までの二、三年間使用することができる建物が必要である。

(三) これに対し、USIU日本校の設立予定地となつた被告岸和田市としても、その誘致を決するために、次のような検討を行つた。

(1) 大阪府から被告USIUに関する資料を入手し、これによれば、被告USIUのレベルは、米国においても上位一〇パーセントに入る名門の大学とのことであつた。

(2) 昭和六三年八月末ころ、被告USIUと交渉の任に当たつていた大阪府担当者を市議会(コスモポリス懇談会)に招き、その交渉経過や将来の展望について説明を受けた。

(3) 昭和六三年一〇月二五日及び翌二六日、市議会(コスモポリス地域整備特別委員会)を、愛知県小牧市(オハイオ大学の誘致を進めていた。)と新潟県中条町(南イリノイ州立大学を既に誘致していた。)を視察し、前記「丸抱え」の問題点について検討した。

(4) 財務調査としては、右(3)の視察後、被告USIUに対し、資産と負債の関係を尋ねたところ、負債一に対し資産は五である旨の返答を受け、平成元年には、右返答を裏付ける資料も入手した。

(5) 更に、昭和六三年一一月二三日、被告USIUの本校を視察した際、当時の学長、理事会、教授会のメンバーと意見交換を行い、また、日本からの留学生とも会つて、感想を聞くなどした。

(四) しかし、被告岸和田市は、前記(三)記載の調査以上に、例えば、米国大学に詳しい専門家に対する意見聴取、日米教育委員会を利用した調査、会計専門家による資産面の検討、入学案内記載の顧問就任の真偽の確認等までは行わなかつたこともあつて、同被告の市議会や関係委員会において、昭和六三年ころから、被告USIUの誘致に関する議論がなされた際、右誘致に対する慎重論の意見も出されたが、これを否定しさるまでの積極的な資料が示されるには至らなかつた。

(五) なお、「USIU大阪校設置についての基本協定」については、その原案は大阪府が中心となつて作成したものであり、「USIU大阪校設置についての基本契約」についても、その締結に当たつては、大阪府と共に、被告USIUから、大学の建設計画及び運営計画についての提供を受け(これに対し、原告らは、右認定に沿う証人上路の証言が基本契約上の条項と矛盾するとして、同証言の信用性を争うが、右条項は、「USIU日本校の恒久的施設」についての段階的な建設計画の提出を要求するものにすぎないのであるから、前記認定を妨げるものではない。)、その締結時期がUSIU日本校開校後となつたのも、用地の引渡時期に関する見解の相違があつたことから、この点の合意に達するために時間を要した結果にすぎなかつた。

2  被告岸和田市の対外的な対応等

(一) 被告岸和田市は、昭和六三年一二月一〇日にUSIU日本校開校の新聞発表があつた後から基本協定締結時までの間、学生募集に関する問い合わせの電話に対し、当時の客観的状況を説明したにとどまり、また、USIU日本校事務局が開設されるまでの間、同校に関するパンフレットを希望に応じて配付したこともあつたが、被告岸和田市がこれを積極的に行つたものではなかつた。

(二) 被告岸和田市は、同市にUSIU日本校が誘致されたことから、平成元年一月、市の広報紙である「広報きしわだ」にその旨を掲載したことがあり、また、被告USIUの要請に応じ、高校の進路相談窓口に配付する目的のために、USIU日本校誘致をその内容とする「ごあいさつ」と題する書面を作成したが、被告岸和田市から、直接これを高校へ配付することはなかつた。

(三) 被告岸和田市は、平成元年一月一八日、府政記者クラブ及び岸和田記者会に対し、「米国国際大学の岸和田市への誘致について」と題する書面を配付したが、その記載内容については、大阪府及び被告USIUとの間でも確認済みであつた。

(四) 被告岸和田市のUSIU日本校誘致担当者の一人であつた上路は、被告USIU(同日本校事務局)の依頼に応じ、その受験説明会に出席した際、USIU日本校においては、他の米国大学と異なり、その経営や授業プログラムについては、被告USIUが主体となつて行う旨を説明し、被告USIU側も、USIU日本校が被告岸和田市の誘致を受けたこと、暫定校舎とキャンパス用地については、無償提供を受けることなどを説明していたが、それ以上に、被告岸和田市から全般的な財政援助を受けるとか、大学経営について同被告も参加するなどといつた説明は一切なく、むしろ、日本で既に開校されていた米国大学と異なる特色として、米国の本校が直営する大学である旨を強調していた。

3  USIU日本校開校後における被告岸和田市と被告USIUとの交渉

(一) 被告岸和田市は、USIU日本校開校後、その学生の人数、教師の資格、事務局の構成等の日常的な運営状況について、被告USIUから、その都度報告を求めていたが、これは、正確な教育活動が運営されているか否かを確認するためのものであり、特に平成元年度入学者数が当初の募集人員を大幅に超え、教室数が足りなくなり、教室を二分して使用するなどしていたことなどから、被告USIUに対し、信頼を裏切るようなことをなすべきではない旨の注意を与えたものの、同被告からは、入学者数については、入学時の学生アンケートに際し、一年後に海外校への編入を希望する者が約半数いたことから、これを受け入れた、又は、入学辞退者がもう少し多く出るものと考えていた旨の返答が、教室の使用形態についても、その後改善した旨の返答がそれぞれあつたため、被告岸和田市としても、平成二年度学生募集の際に学校として適正に機能を発揮できる形で対応するように注意したにとどまつた。

(二) 被告岸和田市は、被告USIUに対し、学校法人化の関係もあつて、図書館の整備等について要請したこともあつたが、少なくとも平成元年度春学期の段階では、右図書館は全く整備されていなかつた。

(三) 被告岸和田市は、平成元年九月八日、その市議会において、USIU本校の経営悪化に関する質問がなされたことから、被告USIUに対し、その釈明を求めたことがあつたが、同被告からは、そのような心配はない旨の返答があつた。

(四) USIU日本校は、被告USIUの指示により、その入学金等同校学生から徴収した金員を本校に送金したり、その後、一旦返還されたものを再度送金したこともあつたが、被告岸和田市は、後日、各年度の収支計算表を入手して右事実を知るにとどまつた。もつとも、被告岸和田市は、右送金の事実を知つた際には、将来のUSIU日本校のために活用するように勧告したことはあつた。

また、被告岸和田市は、USIU日本校に対し、早くUSIU東京校との関係を分離すべき旨の指導を行つており、また、同校は、大阪府からも同様の指導を受けていた。

(五) 被告岸和田市は、平成二年五月二一日、被告USIUから,WASCの「認定」を巡る作業についての進行状況の報告を受けた。

(六) なお、被告USIUが、被告岸和田市に交付した書面(甲斐田の訳したものである。)は、次のような説明があつた。

(1) 被告USIUは、WASCから、その定める大学運営基準との矛盾を指摘され、これを改善してきた結果、一九五六年から過去三八年間にわたり、WASCから認定を受け続けてきた。

(2) WASCの最近の視察は一九八九年(平成元年)三月のことであつたが、その際、WASCは、被告USIUの管理、経営、そして、大学運営を支えるアカデミックな領域における多数の矛盾点を指摘し、被告USIUを「SHOW CAUSE」という認定における特殊な範疇に置く旨を決定した。

(3) 「SHOW CAUSE」の意味するところは、被告USIUが一九九一年(平成三年)三月までに、右(2)記載の矛盾点をできる限り改善したことを明らかにしなければならず、そうでなければ、WASCが被告USIUのアカデミックプログラムに対する認定を取り消すことになる。

(4) 被告USIUは、右矛盾点の改善のために、大学指導者の交代、新たなプログラムの開始、一九九〇年(平成二年)一〇月二日から同月四日までの間に訪問するWASC視察団に対する準備等の努力を払つている。

(5) 被告USIUは、次回の視察団が、被告USIUの改善を認め、今後もWASCの認定が継続されることを確信している。

4  USIU日本校閉校に至る経過

(一) WASCについて

(1) 被告USIUは、平成二年度入学式の前日、USIU日本校のPTA役員に対し、WASC再認定の問題があるとして、WASC認定の学部を同年四月から発足させることができないが、既に学部入学資格を有する学生で、G.P.A.三・五以上の成績を保持する学生のうち、本校の学部編入を希望する者については、そのための一往復分の航空運賃、寮費、食費をUSIU側が負担するとの代替措置を採る旨を説明した。

これに対し、USIU日本校学生のうち、右資格を有する者の中には被告USIUの提案した代替措置を利用した者や、同資格を有しない者の中にも自費で外国のESOLコースに留学した者もいた。

(2) また、被告USIU(マクレナン学長及びマクモナガル日本校校長)は、平成二年一〇月二七日までに、WASC問題について、次のような説明を行うに至つた。

〈1〉 米国では、州政府教育省(日本における文部省に相当する。)の認定を取得しさえすれば、WASCに所属しなくとも大学を設立することができるが、WASCに所属することは、被告USIUにとつて、大学の施設や教育が一定以上のレベルを保持していることの証明となるから、より優れた学生を集めることができ、その大学の学生にとつても、州政府などの奨学金を多くの学生が支給されるなどのメリットがあるため、米国の西部地区のレベルの高い大学は、WASCに所属している。

〈2〉 被告USIUは、以前からWASCに所属しており、今年がその更新期に当たるが、財政的な問題等により、引き続きWASCの認定を取得することは容易ではない状況にある。

〈3〉 WASCは、一九八九年(平成元年)六月、USIU本校を調査に訪れ、その運営上、幾つかの問題点を指摘し(特に重要な指摘は、財政問題であつた。)、一九九〇年(平成二年)一〇月に再調査することになつた。

〈4〉 被告USIUは、財政面における立て直しに努力しており、その方法の一つである帝京大学との提携が実現すれば、財政面での援助が得られると思われるが、現在は予備段階にすぎず、本契約には至つていない。

〈5〉 USIU本校がWASCの認定を取得することができなければ、同日本校においてWASCの認定を取得することも右認定の学部を発足させることもできないが、USIU本校が引き続きWASC認定を取得することができ、その後、同日本校も右認定を取得することができれば、WASCの認定の学部を発足することができる(被告USIUの見通しとしては、早ければ一九九一年(平成三年)九月の予定であつた。)。

(3) もつとも、被告USIU(ラスト学長)は、その配付時期は明確ではないものの、同日本校の学生、父兄に対し、次のような説明のある「大学ご支援の各位へ」と題する書面を配付したこともあつた。

〈1〉 今回のWASCの定例審査の結果、被告USIUに提出された提案は大変厳しい評価であつたが、その対応として、被告USIUは、米国内で定評のある財務管理専門会社であるクレサプ社に対し、当校の目標と現状を教育内容から財務内容に至るまで総括的に分析させ、また、教育分野において著名な学者数名に対し、各専門の立場から当校の教育内容を個別に分析させ、いずれも報告書を提出する旨を依頼した。

〈2〉 その結果、被告USIUは、確固たる財政的基盤の下に運営されていることが明らかとなり(その現在の総資産高は総債務高の五倍である。)、米国西部地域大学許可審議機関の許可を受理した(今回の許可の有効期限は、一九九一年(平成三年)三月一五日である。)。

〈3〉 右許可は、当校の学生が、他校へ編入する際に、当校で修得した単位を他校で認められることや、政府、地方自治体などの公の機関の奨学金に応募する資格ができることをも意味する。

(4) ところで、全米高等教育基準認定協議会によれば、「認定」の役割や意味は、次のようなものであると説明されている。

〈1〉 「認定」とは、教育機関やその提供するプログラムが、業績、信頼、質の面で、その利用者や教育界の信頼に応えるに足る水準にあると認める制度であり、米国においては、認定専門団体等が、認定基準を設定し、現地を視察し、認定を求めている教育機関やプログラムを評価し、右基準に達している場合は、認定校(又は教育プログラム)として公に指定する。

〈2〉 日本における日本人のための米国の教育プログラムの一つである「分校」とは、学位取得のための単位を与え、米国にある高等教育機関の分校とみなされるものであるが、認定を受けているのは、米国にある機関であり、分校は別個の認定を受けているわけではない。分校が本校とは別に審査を受け、認定を行う団体が分校の教育の質が本校と同じ水準と判断されて初めて米国にある本校の認定が分校にも授与される。

これに対し、「言語教育プログラム」(これも、日本における日本人のための米国の教育プログラムの一つである。)は、「分校」が提供しているものと、単位を授与する機関とは別の独立プログラムとして提供しているものもあるが、一般的には、いずれの言語プログラムにおいても、単位を取得することができず、学位の取得にはつながらない。したがつて、言語プログラムは、別個の審査を受けていないので、単なる米国の認定校のプログラムにすぎないとみなされている。

〈3〉 ある機関が機関全体として認定を受けている場合、右認定が示すものは、当該機関の全般的な質であり、その認定基準は、教育理念、管理、学科、教員、学生のためのサービス、資金源、図書館、建物などの重大な要件に対して適用される(ただし、その認定は、認定校の提供している個々の学科や個々のコースの質を示すものではない。)。認定を受けているということは、その認定校の教育活動が外部からの評価を受けて、前記認定基準に示されているような、米国の高等教育に期待されている水準に到達していると判断されたことを示している。

認定校の場合、一つの米国の認定校から別の米国の認定校へ単位を移すことが可能であり、また、より高い学位の取得を目指すプログラムへの入学も可能である。

〈4〉 認定は、認定校や認定プログラムの教育上の質を、ある妥当な期間、証明するものであるが(認定期間は約五年から一〇年であるが、その間、必要ならば中間評価を行う。)、認定は恒久的なものではなく、認定校や認定プログラムに実質的な変化が生じた場合、認定団体はこれを評価する。

〈5〉 認定校になれば、政府が資金援助をしているプログラムの資格を取得することができ、また、認定校に入学願書を提出している学生又は既に入学している学生は、政府の学生ローンの資格を取得することができる(ただし、認定を受けていても、外国国籍の学生が米国政府の学生ローンを利用することはできない。)。

(二) 被告USIUの対応等

(1) 平成二年九月二七日(以下、(6)まで同年とする。)

被告USIUは、サンディエゴにおいて、次のようなプレス発表を行つたが、被告岸和田市には全く知らされていなかつたものであつた。

〈1〉 被告USIUは、帝京大学とその提携大学で組織されている世界的ネットワークにこの度加入した米国の他の四大学と共に、基本契約を締結した。

〈2〉 被告USIUにおいては、その名前が「USTIU」と変更されるものの、被告USIUの教授陣もスタッフも現在のままであり、その提供するプログラムが変更されることはない。

〈3〉 USTIUは、WASCのメンバーである。

(2) 九月三〇日

被告USIU(マクモナグル日本校校長)は、USIU日本校の学生やその父兄等に対し、次の内容の書面を配付した。

〈1〉 USIU日本校は、帝京大学グループと交渉し、提携するに至つた。

〈2〉 マクレナン学長は、右提携により、日本校において提供しているプログラムが変更されることはないと述べている。

〈3〉 USTIUは、WASCのメンバーであり、その将来の運営も、全てWASCに従うことが必至とされている(WASCは、平成二年一〇月二日から五日までの間、USTIUを評定する予定である。)。

〈4〉 USIU日本校の現在の最大の目標は、できる限り早く、単位認定の学位コースを設置することにあるが、右提携はその達成可能性を高めたものである。

(3) 一一月一三日

岸和田市市長が、帝京大学総長と会談した際、同大学からは、被告USIUとの提携条件として、〈1〉被告岸和田市と被告USIUとの基本契約の解除、〈2〉学校の法人格は取得しない、〈3〉USIU日本校では、ESOLコースの授業のみを行う、〈4〉提携により予想される学生からのクレームは被告岸和田市が対処するとの四点を提示し、あわせて、キャンパス用地についても、二五年先ではなく、直ちに所有権を移転し、一〇年を経過すれば、自由に使用することができるようにする旨の提案があつたが、被告岸和田市としては、右内容はいずれも到底容認しえないものであつた。

(4) 一一月二〇日

他方、被告USIU(マクレナン学長)も、被告岸和田市に対し、帝京大学との提携のために、次のような提案を行つた。

〈1〉 USIU日本校は、現在存在するプログラムを一九九一年(平成三年)四月まで継続するが(新しい学生の入学は認めない。)、右の時点までに目的を達成することができない学生のために、右プログラムを一九九二年(平成四年)四月まで継続する(ただし、その施設は、被告岸和田市から借り受けるものとする。)。

〈2〉 被告USIUは、資格のある学生を同日本校のプログラムから被告USIUのプログラムに受け入れることを保証し、資格のある学生に対しては、サンディエゴ本校又はロンドン校のいずれかと日本との間の年一回の往復航空チケットを、資格のある学生のうち、USIUシステムへの登録を希望しない者に対しては、幾らかの現金をそれぞれ提供するが、これらの条件の対価として、学生は、被告USIU及び被告岸和田市を将来の訴訟から免責するための書面にサインする必要がある。

〈3〉 被告USIUは、米国における大学の学位取得に向けた四年制カリキュラムを岸和田市において提供する責任を承継し、認定された財政的に安定した米国大学を探すことを手伝う。

〈4〉 被告USIUは、被告岸和田市に対し、基本契約の変更とこれによつて発生しうる将来の訴訟における被告USIUの免責を求める。

(5) 一一月二六日

被告岸和田市は、被告USIUと会談を行い、前記提案のうち、被告USIUが日本校在学生の保護を十分に行うのであれば、基本契約の変更には応ずるが、将来の訴訟における被告USIUの免責には応ずることができない意向であることを伝えた。

(6) 一二月一二日

被告USIU(マクモナグル日本校校長)は、同日本校の学生やその保護者に対し、次の内容の書面を配付した。

〈1〉 被告USIUは、経費の増大や経営の拡大、全般的経済状態等の影響により、現在財政難に直面している。

〈2〉 被告USIUが検討している選択の一つが帝京大学との提携であるが、未だ締結には至つていない。

〈3〉 USIU日本校は、スケジュールどおり、授業を続ける予定である。

(7) 平成三年一月一六日(以下、(16)まで同年とする。)

被告USIU(マクレナン学長)は、岸和田市市長に対し、〈1〉ESOLコースを四月以降も継続したい、〈2〉できるならば、ESOLコースだけの新入生を募集したい、〈3〉基本契約の改定、〈4〉来年度も仮校舎を無償で借り受けたい旨を申し出たが、被告岸和田市は、学生の救済を基本に取り組むように要求していた。

(8) 一月一八日

被告USIUは、次の内容の声明を発表した。

〈1〉 被告USIUは、一月一六日及び一七日、被告岸和田市との間に話し合いの場を設けた。

〈2〉 被告USIUは、チャプターイレブンを提起したが、これは、清算又は破産を意味するものではなく、大学の債権者全ての承認の下において大学が再建にあたつている期間、大学を保護し、その学業プログラムと運営を中断することなく、継続することを可能とするための再建を意味するものである。

〈3〉 被告USIUは、右再建の一環として、一九九一年(平成三年)春から一九九二年(平成四年)三月まで、同日本校のESOLコースの授業を続ける意向である(平成四年四月以降の授業計画については、被告岸和田市職員と引き続き協議する必要があり、同校における大学の運営に関連した他の全ての重要な点は見直されているところである。)。

〈4〉 マクレナン学長は、被告USIUは、WASCの認定を受けたままの状態であり、本校の学部在籍学生数は、昨年度冬学期よりも、今年度冬学期の方が上回つていると述べている。

(9) 二月一六日

被告USIU(フィリップス日本校校長)は、岸和田市市長に対し、〈1〉被告USIUは、同日本校学生に対して責任を果たす、〈2〉日本校ESOLコースは、平成四年三月までは実施した後、閉校する、〈3〉日本校学生のうち、海外校編入を希望しない者については、フィリップス大学日本校の入学金免除とUSIUの単位を認める等の措置を採る旨の申出があつた。

(10) 二月一八日

被告USIUは、USIU日本校学生及び父兄に対し、次の内容の書面を配付した。

〈1〉 再建計画に含まれているUSIU日本校の方針としては、一九九一年(平成三年)四月から一九九二年(平成四年)三月までのESOLコースの授業を継続する。

〈2〉 被告USIUは、前記〈1〉記載のコースのための新入生を受け入れる意向である。

(11) 二月二二日

被告岸和田市は、これまでの状況を受けて、USIU日本校の対策を総合的に検討実施する機関として「USIU日本校対策委員会」を設置し、学生の保護対策を中心とする検討を開始した。

(12) 二月二六日

しかし、被告岸和田市は、被告USIU(マクレナン学長)と、同日本校の存続について協議した結果、被告USIUがチャプターイレブンの申請中であり、連邦破産裁判所の監督下にある状況においては、同日本校のこれ以上の存続は非常に困難であると判断し、前記(9)記載の被告USIUの申出を承諾するに至つた。

(13) 二月二七日

被告USIU(同日本校事務局)は、USIU日本校学生の保護者に対し、平成三年度の同校における受講希望者は、翌三月八日までに学費を納入するように通知した。

(14) 二月二八日

ところが、被告USIU(同日本校事務局)は、USIU日本校の学生及び保護者に対し配付した書面には、次のような説明があつた。

〈1〉 被告USIUは、平成三年二月二六日、被告岸和田市と協議を行い、次の点を確認した。

[1] 被告USIUと被告岸和田市は、相互に協力し、在籍中の学生の処遇について対処する。

[2] 本件基本契約は終了した。

[3] USIU日本校は、一九九二年(平成四年)三月までESOLコースプログラムのみを継続する。

〈2〉 学長からの報告

[1] 前記〈1〉[3]記載のとおり(ただし、再建計画に従わなければならず、赤字の運営はできないため、同校の学生が三〇人以上残らなければ、その運営が非常に困難となり、再建計画の見直しが必要となる可能性もある。)。

[2] WASCについては、現時点で夏までは認められており、六月にWASC経営調査団が本校を訪れ、最終的な決断が下される予定であるが、現在残された問題は財政の改善だけであり、そのための努力を行つている。

[3] 一九九一年(平成三年)四月から、他の米国大学日本校への編入を希望する者については、被告USIUが入学金の免除等の交渉を行つているので、右希望者はその旨連絡されたい。

〈3〉 スペシャルトランスファー、スペシャルステイタス、ESOL編入

[1]  スペシャルトランスファー(日本校学生のうち、G.P.A.三・〇以上(五段階)とESOL一〇〇(三つのセクションのうち、二つを完全に終了)をパスし、大学入学資格を有する学生で、編入を希望する者)は、大阪サンディエゴ間の一往復チケット(他のUSIU校への編入希望者は、これと同額)の授与、USIU大学内寮の一二学期間又は学位取得までの貸与(食費及び寮費は自己負担)、海外校における日本校と同額の授業料負担(ナイロビ校を除く。)の待遇とする。

[2] スペシャルステイタス(日本校学生のうち、G.P.A.二・五ないし二・九九(五段階)を保持し、ESOL一〇〇(三つのセクションのうち、二つを完全に終了)をパスした学生で、編入を希望する者)は、一年間(三学期四五単位)学部の授業を受講することができる(ただし、飛行機代、寮費、食費等は自己負担)。継続して学部の勉強をするためには、三学期間に四五単位を履修し、少なくとも米国における四段階評価で二・〇以上の成績を修める必要があり、三学期目の最後で右成績を修めることができれば、その時点で[1]の待遇を受けることができる。

[3] ESOL編入について、ESOLコースで二つ以上のコースを未だ受講している者については、少なくとも2つ以上のコースを修了するまでは、編入先の授業料額を支払う必要があり、飛行機代、寮費、食費等も自己負担となるが、ESOLコースを二つ以上修了し、G.P.A.三・〇以上(五段階)を保持していた場合、[1]の待遇を受けることができる。

G.P.A.二・五ないし二・九九(五段階)を保持し、ESOLコースを二つ以上修了した場合、[2]の待遇を受けることができ、更に、[2]記載の条件を満たせば、[1]の待遇を受けることもできる。

(15) 三月一五日

被告USIU(フィリップス日本校校長)は、被告岸和田市に対し、日本校学生の処遇に関する見通しが立つたことを理由に、一方的に同校を平成三年六月に閉校する旨通知してきた。

これに対し、被告岸和田市は、被告USIUに対し、同被告の日本における窓口の設置及び学生に対する責任ある対応を求めたが、結局、右通知を了解するに至つたものであつた。

(16) 三月一八日

被告USIU(フィリップス日本校校長)は、USIU日本校の学生及び保護者等に対し、次の内容の書面を配付したが、学生らのESOLコース修了状況は、被告USIU実施の平成三年春以降の学生進路状況調査結果によれば、別紙「学生らのESOLコース修了状況」記載のとおりであつた。

〈1〉 USIU日本校は、春学期終了時に閉校することに決定した。

〈2〉 ESOLコースの学生の多くは、六月には同コースを修了し、スペシャルトランスファー等の利点を受ける。

〈3〉 サンディエゴ本校においてESOLコースを継続して受講する学生には、同コースを修了するまで無料で寮を授与され、大学の学部課程のためのスペシャルトランスファー等の利点を受けることができるようになる。

(三) 学校法人化に関する経緯

(1) 平成元年一〇月、日本法人設立準備会が設立され(その構成員は、被告USIU学長、同本校の副学長二名、同日本校校長、事務局長(甲斐田)、大阪府教育長、大阪工業会(伊勢芳吉)の合計七名であり、被告岸和田市の職員等はその構成員には含まれていなかつた)、大阪府私学課の指導を受け、十数回にわたる協議の後、専修学校又は各種学校として当時の教育実態を尊重し、学校基準に沿つた内容で計画書を作成するなど、右時点後は、学校法人化に関する具体的活動を開始していた。

(2) 平成二年七月二六日、被告USIUから、大阪府私学課に対し、学校法人設立認可申請の事前協議書が提出され、概ね平成二年中には私学審議会の議を得ることができるところまで進んでいた。

(3) しかし、被告USIUは、前記のとおり、帝京グループとの提携交渉、チャプターイレブンの申請などを行つたほか、最終的には、学校法人設立認可申請及び各種学校設立認可計画を撤回するに至つた。

二1  原告は、被告岸和田市が被告USIUの共同事業者であることを前提として、種々の注意義務違反を主張するので、まず、この点について判断するに、両被告間の明確な合意を記した基本契約は、被告USIUが同日本校の経営主体であることを前提としているばかりか、被告岸和田市がその管理経営責任を負わない旨まで明記されているところであつて、誘致すべき大学の選択に関する経緯に照らしても、これ自体、大阪府の主導によるところが大きいが、被告岸和田市もこれに沿つて、地方公共団体が共同事業者となることを前提とする誘致では、その財政面等の負担を重くすることから、むしろこれを回避しようとした結果、被告USIUを選択したものであつて、その後の対外的対応等においても、誘致した関係上、種々の便宜を図つてはいるものの、その経営主体としては被告USIUのみであることが、被告岸和田市のみならず被告USIUからも一貫して説明されていたところであり、USIU日本校の誘致からその閉校に至るまでの被告岸和田市の被告USIUに対する種々の働きかけ等において、共同事業者たる地位に基づくような経営者的言動は一切窺われず、他に被告岸和田市が共同事業者であることを推認させるような事情も認められないのであるから、結局、被告岸和田市は、誘致者たる地位にとどまり、その共同事業者ではないというべきである。

したがつて、原告の前記主張は、その前提を欠き、採用することができない(なお、被告岸和田市は、被告USIUの共同事業者たる地位を有するものではないが、原告は、被告岸和田市が右共同事業者たる地位を有すると否とに係わりなく、前記主張をするものであると考える余地もあるが、前記認定によれば、被告岸和田市は、行政上の施策の一環として、USIU日本校を誘致したにとどまるというべきであるところ、かかる地位にある被告岸和田市にあつては、原告主張の義務ないし注意義務を負担するか疑問であり(なお、原告主張の、被告岸和田市の宣伝による誘致に係る事業計画の実現の保証責任は明らかに主張自体失当である。)、この点をひとまず措いても、前記認定によれば、被告岸和田市は、USIU日本校の誘致決定以降、同校の閉校に至るまでの間、適宜、指導勧告等を行つていたというべきであるので、原告の前記主張は理由がない。

なお、原告は、「公の支配」に属する教育事業に対する公金支出の観点から、被告岸和田市にはUSIU日本校開校後の資産管理に関する指導監督義務違反があつた旨も主張するが、被告岸和田市は、適宜、指導勧告等を行つていたものということができるから、原告の右主張も、採用することができない。

2  なお、原告は、被告岸和田市と被告USIUとの共同不法行為責任も主張するので、この点についても判断する。

(一) 民法七一九条一項前段について、原告の主張する被告岸和田市と被告USIUとの関連共同性も、被告岸和田市が被告USIUの共同事業者であることを前提とするものと解されるから、この点に関する原告の主張は、前記1で判示したところから明らかなように、その前提を欠き、採用することができない。

(二) 民法七一九条二項について、原告は、被告岸和田市の「教唆」として、同被告が被告USIUを積極的に誘致して開校の意思決定をさせたことを主張するが、本件において、開校それ自体が違法であるというべき根拠はないので、その言わんとするところは、教育方法の不十分な学校としての、また、暫定校としての開校等を意味するものと解されるが、開校に当たり、いかなる教育方法を採用するかは、全てその経営主体たる被告USIUのみに委ねられ、他者の干渉を許すものではなかつたのであるから(被告岸和田市としては、せいぜい事後的に指導勧告等をなしえたにすぎない。)、また、いかなる学校形態を採るかについても、確かに、暫定校開校は基本協定上に定められたところではあるが、右原案の作成も大阪府が中心となつたものであり、被告岸和田市の関与する以前に既定の方針となつていたともいえるのであるから、原告主張の被告岸和田市の「教唆」の事実は認めることができない。

また、原告は、被告岸和田市の「幇助」として、同被告が種々の助言、助力を行つて被告USIUの不法行為の実行を容易ならしめたことを主張し、被告USIUの不法行為(虚偽の表示及び説明)は、既に判示した限度で認められるが、右表示及び説明も、その教育内容に関わるものであり、その経営主体ではない被告岸和田市が事前に関与しえなかつたところであるから、原告主張の被告岸和田市の「幇助」の事実も認めることができない。

(三) したがつて、この点に関する原告の主張も採用することができない。

三  以上によれば、原告の被告岸和田市に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第九  争点8(損害)に対する判断

一  原告は、その財産的損害として、入学金、授業料及び施設費の全て(合計一一五万円)を主張した上、その余の財産的損害を含む精神的損害(慰藉料二〇万円)をも主張するので、これを全て被告USIUの不法行為(虚偽又は誇大な表示及び説明)と相当因果関係のある損害ということができるかについて判断するに、確かに、学校教育の本質的要素ともいうべき教育方法について、被告USIUの表示及び説明とその実態との間にかなり大きな齟齬があつたことからすれば、前記主張を肯認しうるかのごとくであるが、教育スタッフについては、原告の希望を充足するに足りなかつたとはいえ、その担任であつたディビット・ベイカは英語教授法博士の資格を有していたばかりか、その尽力によつて可及的に充実した授業が実施されたこと等に照らすと、原告らの財産的損害もせいぜいその一部にとどまるものといわざるを得ず、しかも、その支出した入学金、授業料及び施設費のうち、いかなる割合において相当因果関係を有するかは、必ずしも明確にしえないというべきであるから、原告らの前記主張は直ちに採用することはできない。

しかしながら、原告らは、明示的には、その余の財産的損害をも含む包括慰藉料を主張するものの、黙示的には、一切の財産的損害を考慮した精神的損害をも主張するものと解されるのであるから、本件においては、慰藉料のみを認め、その算定に当たり、財産的損害の存在を斟酌するのが相当である(損益相殺も、その趣旨を慰藉料算定に当たつて考慮するにとどめる。)。

二  これを本件についてみるに、慰藉料算定に当たつて考慮を要する主たる事情は、次のとおりである。

1  既に判示したとおり、USIU日本校において実施された教育の本質的要素には、その表示及び説明したところとその実態との間に大きな齟齬があつたことは、慰藉料算定に当たり、重視されるべきである。なお、原告が実際に享受したESOLコースの受講も、被告USIU独自のカリキュラムであつて、これを受講したからといつて、一般に通用しうる資格を授与するものではないから、同カリキュラムを途中まで履修したことをもつて、直ちにその慰藉料を減額すべき事由とすることはできない。

もつとも、原告は、米国大学への進学を目指していたものであつて、英語力の養成が不可欠なものであり、実際上、USIU日本校からUSIU海外校へ編入した学生も存することに照らすと、同校におけるESOLコースの受講も一定の役割を果たしたということもでき、これを全く無意味なものと評価することはできない。

2  学校法人化の点は、原告の真に意図する米国の大学への進学、卒業という目的にとつては、同大学が日本においていかなる法人格を有するかは重大な関心事であるとはいえないものの、キャンパス、顧問等の点については、被告USIUが信用ある大学であるとの期待を裏切るものであつて、右期待が裏切られたことによる原告の精神的苦痛も決して看過しえないところである。

3  教養学部(教養課程)の設置の点も、確かに、原告の入試結果に照らすと、その進学可能性は比較的高く、特に、平成元年度に限つて同学部(課程)進学を優遇する旨の特別措置に関する説明をも加味すれば、この点に関する原告の期待も大きいものであつたことは推認するに難くないが、原告は、被告USIU側の対応に誘発された側面がないわけではないにせよ、右設置予定とされていた平成元年九月から三か月間の停学に服し、同年一一月には、入学契約を取り消す旨の意思表示をしたことにより、そのころ、USIU日本校における就学の意思を事実上断念したということができるので、原告は、これを受講しえなかつたということができる。

4  原告は、平成元年四月にUSIU日本校に入学したものであるが、前記のとおり同年一一月に、入学契約を取り消す旨の意思表示をしたことにより、そのころ、事実上、就学の意思を断念したものであつて、USIU日本校に在学した期間は、さして長いものではないが、原告が就学の意思を事実上断念するに至つたについては、原告が被告USIUから停学処分を受けたことによる憤りのほかに、USIU日本校における教育内容等における表示及び説明と実態の齟齬の存在及びこれに対するUSIU日本校に対する失望がその原因の一つになつているであろうことは、推認に難くないので、原告の在学期間が比較的短いものとなつたことは、右事情との係わりにおいて評価しなければならない。

三  右のような事情に、その他諸般の事情を総合すると、原告の慰藉料としては、一〇〇万円が相当である。

第一〇  結論

以上によれば、原告の請求は、右の限度で理由がある(なお、遅延損害金の起算日については、被告USIUの不法行為の後である平成元年一二月二七日からとなり、仮執行宣言については、相当でないから、これを付さないこととする。)。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 森 宏司 裁判官 田中秀幸は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 中路義彦)

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